尿糖検査は糖尿病の発見につながる手がかり

はじめに
尿糖やら糖尿やら、「糖」のことを言っているのか「尿」のことを言っているのか、混乱する時はないですか?尿糖は尿の中の「糖」、糖尿は糖のように甘い「尿」のことですね。
特定健診や糖尿病患者の定期受診には、必ず尿糖検査があります。腎臓から尿に血液中のグルコース(ブドウ糖)が出ているかを容易に確認できる簡単な検査ではありますが、尿糖陽性は糖尿病を含むいくつかの疾患を示唆するなど有用な情報を得ることができます。

尿中一般物質定性半定量検査の糖定性【尿】という検査項目が、尿糖検査と言っているものです。半定量検査なので、尿中グルコース濃度(尿糖値)のおおよその値もわかります。検査結果が「陰性(-)」であれば基準範囲にあり正常と判断されます。

尿中糖定性半定量検査
陰性(-)→ 尿糖値50[mg/dL]以下または試験紙のグルコース検出感度以下 : 正常
──(±)→ 尿糖値約50[mg/dL]
陽性(1+)→ 尿糖値約100[mg/dL]
陽性(2+)→ 尿糖値約200[mg/dL]
陽性(3+)→ 尿糖値約500[mg/dL]
陽性(4+)→ 尿糖値約1000[mg/dL]

腎臓は、血液を濾過する働きをします。血液中の老廃物や過剰な電解質および水分は、尿として体外に排泄されます。グルコースは、濾過後にほぼすべてが再吸収されて血液中に戻るため、健常人で尿へ漏れ出すグルコースは僅かであり、尿糖検査は陰性になります。

少し注意が必要になる尿糖陽性は、特定健診などで空腹時血糖が正常(あるいは正常高値)だが食後に採尿した尿糖検査は陽性という場合で、食後高血糖が示唆されます。糖尿病でも正常でもない軽い耐糖能異常が隠れていて、将来糖尿病を発症するリスクが高いグループに該当する可能性があります。

尿糖は、次のような場合に起こります。

  • 高血糖性尿糖:血糖値が腎臓の糖排泄閾値を超えるような糖尿病や薬剤性、感染や炎症などの身体的ストレスが有る場合
  • 正常血糖性尿糖:腎臓の尿細管疾患や機能異常により糖排泄閾値が低下して正常な血糖値でも尿糖が見られる腎性糖尿の場合

尿糖だけが高い腎性糖尿は、特に問題となる症状は無いので治療せずに放置してよいという「病気」です。

尿中にブドウ糖が出ているだけで他に異常がなければ、何も症状は出ないため、特に治療の必要はありません。腎性糖尿とは(症状・原因・治療など)|ドクターズ・ファイル

自分の腎臓の糖排泄閾値がいくつなのかを知ることに何の意義も見出せませんが、この閾値がどのように決まるかくらい知っていても損はないです。

腎臓の糖排泄閾値

下図は、任意の血糖値の時、糸球体濾液に含まれるグルコースの行き先および量をその移動速度で表したものです。

糸球体で血漿グルコースが濾過される量[mg/分] y は、糸球体が血漿成分を濾過できる量 GFR [mL/分]を k、血漿グルコース濃度[mg/dL]を x としたとき、y=kx の正比例の関係にある。濾過後、尿細管における血漿グルコース再吸収量[mg/分]の最大値 TmG は x に関係無く一定。y < TmG のとき血漿グルコースはほぼ全て再吸収される。y > TmG のときは再吸収されなかった血漿グルコースが尿中に排泄される。

尿中グルコース排泄量 = 糸球体グルコース濾過量 - 尿細管グルコース再吸収量

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糸球体濾液は、血液が「孔」の開いた毛細血管(糸球体)を流れるときに、その「孔」を通過(濾過)してボーマン腔に受け取られる血漿成分(原尿)のことです。ボーマン腔から尿細管腔内を通過する原尿は、その過程で物質の再吸収、分泌、排泄が行われて最終的に尿が作られます。

糸球体濾液の量は、GFR(glomerular filtration rate, 糸球体濾過量)で決まります。糸球体濾液内のグルコースの量は、血漿グルコース濃度に比例して増加します。たとえば、GFR が125[mL/分]、血漿グルコース濃度が280[mg/dL]のとき、糸球体グルコース濾過量は次のように算出できます。

  • 糸球体グルコース濾過量 = GFR × 血漿グルコース濃度 = 125[mL/分] ×(280[mg/dL] / 100)= 350[mg/分]
糸球体濾過量 GFR
イヌリンクリアランス:イヌリン投与による GFR 測定のゴールドスタンダード。
クレアチニンクリアランス Ccr:生体内物質のクレアチニン Cr を用いた24時間畜尿による実測 Ccr に尿細管で分泌される Cr 相当を補正するため ×0.715 として GFR へ換算。GFR = 実測 Ccr [mL/分] × 0.715 =(尿中 Cr [mg/dL] / 血清 Cr [mg/dL])×(尿量[mL/日] / 1440[分/日])×0.715。
推算糸球体濾過量 eGFRcreat [mL/分]:血清 Cr 値、性別、年齢から GFR を算出する「日本人の GFR 推算式 eGFRcreat [mL/分/1.73m2]」を体表面積(BSA)補正をしない値に変換。

グルコースは、尿細管腔内を通過する過程で再吸収される(血管内に戻る)物質ですが、その再吸収の能力には限界があります。尿細管グルコース再吸収の最大量 TmG を超えるグルコースは、再吸収されずにそのまま通過して尿中に排泄されます。

ここで、TmG を350[mg/分]とします。上図から、血漿グルコース濃度が280[mg/dL]を超えると、グルコースは尿中に排泄されると予想できます。

  • 尿中グルコース排泄量 = 糸球体グルコース濾過量 - 尿細管グルコース再吸収の最大量 TmG

実際は、糸球体グルコース濾過量が尿細管グルコース再吸収の最大量を超えるより前に、原尿に含まれるグルコースが尿中に排出されるスプレイ参考図)という現象があるので、280[mg/dL]より低い糖排泄閾値になると思われます。上図では、閾値が200[mg/dL]前後になるように作図しています。

グルコースは能動輸送で再吸収されるので、輸送担体が飽和した状態が尿細管グルコース再吸収の最大量 TmG です。図1. では、血糖値が200[mg/dL]あたりから輸送担体の飽和に近づきつつあり、400[mg/dL]を超えると完全に飽和状態で、グルコース再吸収量は350[mg/分]で頭打ちです。

さて、{尿細管グルコース再吸収量 = 糸球体グルコース濾過量 - 尿中グルコース排出量}の関係から TmG を求めるためには、血糖値を一定時間保持している間に排泄された尿中のグルコース濃度の実測を正常血糖域から高血糖域まで行い、尿中グルコース排出量を算出しなければなりません。

結局、尿中のグルコースを検出したところの保持された血糖値が腎臓の糖排泄閾値になる訳で、かなりの高血糖を短くない時間保持する必要がある実験をヒトで行うには倫理的に問題なので、動物モデルで行っているようです。

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