HbA1c に反映される血糖レベルの時期をステップ応答から解析

はじめに
過去の血糖レベルと赤血球の寿命が HbA1c(糖化ヘモグロビン)の生成レベルに与える影響を概略図から見て取れる単純化したモデルを作り、HbA1c レベルは過去120日間の加重平均血糖レベルを表すことがわかりました。
次にこの概略図を利用して、血糖レベルが急激に低下した後に一定を維持した場合を想定した HbA1c レベルの変化を追跡し、HbA1c レベルは過去120日間の加重平均血糖レベルを反映していることを確認します。

ヘモグロビン糖化系のステップ応答を調べる上で系の初期値を 0 にすると、循環血液中に赤血球が存在しない → ヘモグロビン 0、グルコースも存在しない → 血糖値 0 という生体ではありえない所からの追跡開始になってしまいます。

図1. はHbA1c の糖化時期を知るために書いた概略図ですが、これが系の初期値を0にしたステップ応答ですね。

計算によってステップ応答を調べることができても、糖尿病患者で実際にどうなるのかが重要なので、開始前は高血糖レベルで一定、開始後は正常血糖レベルで一定となるような想定の階段状入力にして、赤血球の寿命を考慮した HbA1c レベルの変化を追跡します。

HbA1c レベルの応答の追跡は、図1. の「120日経過直後」から開始します。

赤血球内で1日あたり1単位のヘモグロビンが糖化されると仮定し、日齢1日のある赤血球が日齢120日になるまでの120日間を30日間×4期間に区切り、各期間内に1日齢から120日齢までの赤血球内で起こる糖化について、30日齢×4層を色別にして追跡した。最初の30日間経過時に1日齢から30日齢だった赤血球内では全4期間で糖化が起こり、それより若い日齢層になるほど過去の3期間、2期間、1期間と減少する。

図1. ヘモグロビン糖化系のステップ応答を追跡する前の状態

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図2. は、ヘモグロビン糖化系のステップ応答の概略図です。血糖レベルを規定できないので、追跡開始後の糖化速度を開始前の半分にすることでステップ入力としました。

時間経過120日までは糖化速度が1.00、それに正比例する血糖レベルで過去120日間に糖化された HbA1c レベル(緑系色のブロックで表示)がステップ応答の追跡開始直前。時間経過121日以降の糖化速度を0.50に変化させた時から HbA1c レベルの変化を追跡開始。変化後の糖化速度に正比例する血糖レベルで新たに糖化された HbA1c レベル(青系色のブロックで表示)に置き換わるまで120日かかった。

図2. 血糖レベルの変化に対して HbA1c(糖化ヘモグロビン)レベルの収束期間は?

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HbA1c のステップ応答の概略図からわかること
A. 血糖レベルが変化する前の HbA1c レベルから変化後の血糖レベルによって糖化されたヘモグロビンの HbA1c レベルに置き換わるまでの時間は120日(図では4期間)。
B-1. 血糖レベル変化後の1期間目の30日(累積150日)が経過。血糖レベル変化直前の HbA1c レベルにおける日齢91日から120日の赤血球と糖化ヘモグロビンが循環血液中から除去。その量は HbA1c レベル全体の約44[%]。この期間の HbA1c レベルの変化量は、全4期間の約44[%]。
B-2. 血糖レベル変化後の2期間目の30日(累積180日)が経過。血糖レベル変化直前の HbA1c レベルにおける日齢61日から90日の赤血球と糖化ヘモグロビンが循環血液中から除去。その量は HbA1c レベル全体の約31[%]。この期間の HbA1c レベルの変化量は、全4期間の約31[%]。
B-3. 血糖レベル変化後の3期間目の30日(累積210日)が経過。血糖レベル変化直前の HbA1c レベルにおける日齢31日から60日の赤血球と糖化ヘモグロビンが循環血液中から除去。その量は HbA1c レベル全体の約19[%]。この期間の HbA1c レベルの変化量は、全4期間の約19[%]。
B-4. 血糖レベル変化後の4期間目の30日(累積240日)が経過。血糖レベル変化直前の HbA1c レベルにおける日齢1日から30日の赤血球と糖化ヘモグロビンが循環血液中から除去。その量は HbA1c レベル全体の約6[%]。この期間の HbA1c レベルの変化量は、全4期間の約6[%]。

ここからは、下記の文献「糖尿病患者における経時的な血漿グルコースの階段的変化に対するグリコヘモグロビンの応答」が結論を導いた過程に沿って考察してみます。

…… Note that if GHb level reflects the mean plasma glucose level in the preceding t days, it should reach a new, steady state level t days later when the plasma glucose level changes rapidly. Thus, the fact that HbA1c required 4 mo to reach a new steady-state level suggests that GHb level reflects the plasma glucose level in the preceding 4 mo. Furthermore, the 50 and 75% changes in HbA1c level that took place 1 and 2 mo after decrements in plasma glucose suggest that ~50% of GHb level is determined by the plasma glucose level during the preceding 1-mo period, and that ~25% of GHb level is determined by the plasma glucose level during a prior 1-mo period. The remaining 25% of the GHb level is, therefore, determined by the plasma glucose level during a 2-mo period before these 2 mo. The GHb level does not simply reflect the mean plasma glucose level in the preceding 2 - 3 mo but does reflect the weighted mean plasma glucose level in the preceding 4 mo. The Response of GHb to Stepwise Plasma Glucose Change Over Time in Diabetic Patients - Diabetes Care 1993;16(9):1313–1314

上記 A. において、血糖レベルが変化する直前の HbA1c レベルは、「緑7」色ブロック4個、「緑5」色ブロック3個、「緑3」色ブロック2個、「緑1」色ブロック1個の計10個で表されます。血糖レベルが変化した後、120日経過した時点で「青系」色ブロック10個で表した HbA1c レベルに置き換わります。

血糖レベルが変化する直前の「緑系」色の HbA1c レベルが「青系」色の HbA1c レベルに置き換わるまで120日を要したということは、過去120日間糖化された結果が「青系」色の HbA1c レベルであり、そのレベルは過去120日間の血糖レベルを何らかの形で反映していることを示唆します。

同様に、血糖レベルが変化する直前の「緑系」色ブロック10個で表した HbA1c レベルも、過去120日間の血糖レベルを何らかの形で反映していると考えることができます。そして、血糖レベルが変化した後120日をかけて、「緑系」色の HbA1c レベルの成分は全て除去されます。

血糖レベル変化直前に「緑系」色だった HbA1c レベルは、血糖レベル変化後、時間の経過とともに変化し、120日経過時点で「青系」色の HbA1c レベルに収束します。それ以降血糖レベルに変化が無ければ HbA1c レベルは一定を維持します。この HbA1c レベルの全変化量を100[%]とします。

血糖レベル変化後の120日経過時に起こった HbA1c レベルの100[%]の変化は、血糖レベル変化直前の「緑系」色の HbA1c レベルの100[%]が除去されることを意味すると同時に、「緑系」色の HbA1c レベルの100[%]は、過去120日間糖化され、その期間の血糖レベルを反映していることを示唆します。

上記 B-1. の血糖レベル変化後の1期間目の30日経過時に起こった HbA1c レベルの約44[%]の変化は、血糖レベル変化直前の「緑系」色の HbA1c レベルの約44[%]の成分が除去されると同時に、その HbA1c レベルの約44[%]の成分は、過去1ヶ月目の30日間、その期間の血糖レベルによる糖化を示唆します。

上記 B-2. の血糖レベル変化後の2期間目の30日経過時に起こった HbA1c レベルの約31[%]の変化は、血糖レベル変化直前の「緑系」色の HbA1c レベルの約31[%]の成分が除去されると同時に、その HbA1c レベルの約31[%]の成分は、過去2ヶ月目の30日間、その期間の血糖レベルによる糖化を示唆します。

上記 B-3. の血糖レベル変化後の3期間目の30日経過時に起こった HbA1c レベルの約19[%]の変化は、血糖レベル変化直前の「緑系」色の HbA1c レベルの約19[%]の成分が除去されると同時に、その HbA1c レベルの約19[%]の成分は、過去3ヶ月目の30日間、その期間の血糖レベルによる糖化を示唆します。

上記 B-4. の血糖レベル変化後の4期間目の30日経過時に起こった HbA1c レベルの約6[%]の変化は、血糖レベル変化直前の「緑系」色の HbA1c レベルの約6[%]の成分が除去されると同時に、その HbA1c レベルの約6[%]の成分は、過去4ヶ月目の30日間、その期間の血糖レベルによる糖化を示唆します。

まとめると、HbA1c レベルの糖化時期とその構成割合は、過去1か月目の30日間の血糖レベルによる糖化が約44[%]、過去2か月目の30日間が約31[%]、過去3か月目の30日間が約19[%]、過去4か月目の30日間が約6[%]になります。(割合は血糖レベルを一定とした場合)

糖尿病患者の例やこの概略図のような簡単な計算によっても、HbA1c レベルは過去120日間の加重平均血糖レベルを反映していることがわかります。

1976年のヒトにおける HbA から HbA1c への変換の動態に関する研究(The biosynthesis of human hemoglobin A1c. Slow glycosylation of hemoglobin in vivo.)結果から、HbA1c は、赤血球の120日間の寿命の間にゆっくりと継続的にほぼ不可逆的に形成されることが示されました。

その中で、HbA1c の生成速度は、循環血液中の赤血球内グルコースの時間平均濃度に正比例するはずであるから、糖尿病患者の HbA1c レベルは、持続した期間にわたる糖尿病コントロールの妥当性を反映するものだろうということが議論されています。

赤血球の寿命の120日間に HbA1c が生成されることはわかりましたが、HbA1c レベルに反映される血糖レベルの「持続した期間」とはどのくらいと捉えればよいのでしょうか。

1976年以降、糖尿病患者の血糖を変化させて HbA1c レベルの応答を調べる、または HbA1c レベルと過去の血糖や尿中グルコース排泄量の間の相関関係を調べる、という2つのアプローチが使用されました。

前者は、このページで確認したような、血糖レベルが階段状に急激に変化した場合の HbA1c レベルの応答から血糖を反映する期間を分析するものでしたが、その結果はまちまちでした。

1993年、生理学的モデルを基にした理論的解析結果の妥当性が糖尿病患者で実証され、HbA1c レベルは過去120日間の加重平均血糖レベルを反映していることが明らかになりました。

後者の結果は、HbA1c レベル決定時点から過去1ヶ月から2か月間の血糖と、あるいは直前の血糖と最も相関するという、一致しない報告がありましたが、これらの結果や糖化ヘモグロビンの血中半減期から、過去1ヶ月から3か月間の平均血糖を反映するとされてきたようです。

「持続した期間」についての認識は、糖尿病診療ガイドライン2019の「2-3 血糖コントロールの目標はどう設定すべきか?」でもそうですが、多くが「過去1、2ヵ月間」と捉えているようです。

細小血管症を抑制するためには空腹時血糖値および HbA1c(過去1,2ヵ月間の平均血糖値を反映する)の是正が重要であり、大血管症を抑制するためにはさらに食後高血糖の是正も必要である。…… 2. 糖尿病治療の目標と指針 - 糖尿病診療ガイドライン2019

図1. の概略図からは、HbA1c レベルの約75[%]の成分は「過去1、2ヵ月間」に糖化したことがわかります。

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