HbA1c : 過去120日間の加重平均血糖レベルを反映

はじめに
過去の血糖レベルと赤血球の寿命は、HbA1c(糖化ヘモグロビン)の生成レベルにどのような影響を与えるのか。足し算引き算掛け算割り算だけで計算できるような単純化したモデルを作り、その概略図を書いてみました。

HbA1c は、糖化反応(glycation)により生成した糖化ヘモグロビン(glycated hemoglobin)のひとつです。このグルコースとヘモグロビンが結合する非酵素的な糖化反応はメイラード反応の前期段階に相当し、構造が安定したアマドリ化合物の HbA1c 形成以降グルコースは離れることができません。

一般に、化学反応の速度は、反応温度や反応物の濃度・圧力、触媒の有無などに影響されます。生体内では反応温度や反応物の圧力、反応物の片方のヘモグロビン濃度は一定とみなすことができ、非酵素的な HbA1c 生成反応の速度は、赤血球内≒循環血液中のグルコース濃度が高いほど速くなります。

正常な赤血球の寿命である約120日間がグルコースとヘモグロビンの反応可能な時間の上限で、この時間が長いほど糖化される割合は大きくなり、赤血球が細胞膜を失って脾臓や肝臓の食作用を持つ細胞により循環血液中から除去されるまで糖化ヘモグロビン(HbA1c)の生成と蓄積が続きます。

以上のような HbA1c を生成する糖化反応の特徴を踏まえて「赤血球内では1日あたり1単位のヘモグロビンが糖化される」と仮定し、ヘモグロビンの糖化量を赤血球の日齢別に、糖化時期を色で区別して、時系列で表した概略図を作成してみました。

赤血球内で1日あたり1単位のヘモグロビンが糖化されると仮定し、日齢1日のある赤血球が日齢120日になるまでの120日間を30日間×4期間に区切り、各期間内に1日齢から120日齢までの赤血球内で起こる糖化について、30日齢×4層を色別にして追跡した。最初の30日間経過時に1日齢から30日齢だった赤血球内では全4期間で糖化が起こり、それより若い日齢層になるほど過去の3期間、2期間、1期間と減少する。

HbA1c(糖化ヘモグロビン)は、いつ糖化したのか?

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HbA1c 生成の概略図からわかること
HbA1c レベルは、それの決定時点から過去120日間の血糖レベルで決まる。決定時点の赤血球は、その寿命が約120日間なので、日齢1日から日齢120日まで存在するため。
過去120日間の途中で寿命を迎えた赤血球は、蓄積されていた糖化ヘモグロビンも一緒に循環血液中から除去される。
糖化ヘモグロビンの糖化時期とその構成割合は、過去1か月目の30日間の血糖レベルによる糖化が約44[%]、過去2か月目の30日間が約31[%]、過去3か月目の30日間が約19[%]、過去4か月目の30日間が約6[%]になる。(割合は血糖レベルを一定とした場合)
過去120日間の血糖レベルを一定と仮定したにもかかわらず、HbA1c レベルは過去120日間の加重平均血糖レベルを反映する。

先に「赤血球内では1日あたり1単位のヘモグロビンが糖化される」と仮定した根拠は、1978年のレビュー論文「The glycosylation of hemoglobin: relevance to diabetes mellitus.」にまとめられている HbA1c の構造と生成に関する知見です。

…… After either human reticulocytes or marrow were incubated with radioactively labeled amino acids, the specific activity of Hb A1c was considerably lower than that of Hb A, indicating that the modification was a late posttranslational event (13). The kinetics of the conversion of Hb A to Hb A1c in vivo was demonstrated by injecting a bolus of 59Fe-bound transferrin to a normal volunteer and following the specific radioactivity of the major and minor hemoglobins over a period of 100 days (13). …… In contrast, the specific activity of Hb's A1a, A1b, and A1c increased gradually over the life-span of the red cell, reaching that of Hb A by approximately day 60. Thereafter, the specific activities of these minor components exceeded that of Hb A. …… (13) : The biosynthesis of human hemoglobin A1c. Slow glycosylation of hemoglobin in vivo. - J Clin Invest. 1976;57(6):1652-1659.

その参照文献(13)の研究結果は、HbA1c は、赤血球の成熟後、その寿命の120日間を通してゆっくりと継続的にほぼ不可逆的に形成されることを示しています。

HbA1c が赤血球の寿命期間を通して蓄積するという事実からは、なぜ若い細胞年齢の赤血球が老いた赤血球よりも HbA1c の量が少ないのか - 参照文献(16)Red cell age-related changes of hemoglobins A1a+b and A1c in normal and diabetic subjects. - J Clin Invest. 1976;58(4):820-824.という理由を説明できます。

正常な赤血球より早く細胞膜を失って破壊されることにより起こる溶血性貧血などの寿命が短い赤血球を持つ患者の HbA1c の量は、なぜ正常な個人と比較してはるかに少ないのか、という疑問にも答えられます。

HbA1c は、いつ糖化したヘモグロビンのか?

答えは、上記参照文献(13)のヒトにおける HbA から HbA1c への変換の動態に関する研究結果からHbA1c は赤血球の120日間の寿命の間にゆっくりと継続的にほぼ不可逆的に形成されると実証されたとおり、HbA1c レベルの決定時点から過去120日間であることは明らかでした。

前掲の「ヘモグロビンの糖化量を赤血球の日齢別に時系列で表した概略図」からも、HbA1c レベルの決定時点から過去120日間に糖化されることがわかります。

ただし、この「概略図」をヒトに適用して確認するには無理があります。階段状の血糖レベルの変化に対する HbA1c レベルの応答を分析する方法であれば、血糖コントロール不良の糖尿病患者を入院させて急速に血糖レベルを正常化することにより確認できます。

このページで用いた「概略図」にヘモグロビン糖化系のステップ応答を適用してみました。急速な血糖レベルの変化に対する HbA1c レベルの変化が収束するまでには、時間的な遅れが見られます。

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