糖尿病家族歴
糖尿病家族歴は、2型糖尿病発症の強いリスク因子です。
家族歴に加えて、過体重(BMI≧25)または肥満(BMI≧30)で「前糖尿病」状態だとしたら、何もしなければ十年以内に半数が糖尿病を発症するくらいのリスクになります。
- 糖尿病家族歴とは?
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- 父母兄弟姉妹の誰かが2型糖尿病である。
- 母親が妊娠糖尿病だったことがある。
この説明から、「糖尿病は『遺伝する』病気なのだ、親が糖尿病だから自分も将来なってしまう」と思った人は、誤解しています。
事実、2型糖尿病は多因子遺伝疾患と考えられているのですが、遺伝要因が発症に関係しているという意味であって、遺伝するのは病気ではなく親の形質(形や性質)です。
糖尿病に「なりやすい」体質―インスリンの分泌が低下しやすいとかインスリン抵抗性を来たしやすいとか―を決めるのは、遺伝子です。
子は父親から半分の、母親からも半分の遺伝子をもらうので、親子間では遺伝子の半分を共有します。
同じ親を持つ兄弟姉妹の間では、個々の組み合わせを見れば遺伝子型が全く一致しない場合もあります(図2.参照)が、確率的に遺伝子の50[%]が共有されることがわかります。
したがって、父母兄弟姉妹の誰かが2型糖尿病であれば、糖尿病に「なりやすい」体質を持っている可能性が高いと言えます。
多因子遺伝疾患
複数の遺伝因子と環境因子の相互作用により発症すると理解されている、比較的ありふれた身近でよくある以下のような疾患が多因子遺伝疾患です。
- 先天奇形(唇裂・口蓋裂、内反足、心奇形など)
- 精神疾患(精神分裂病、アルツハイマー病など)
- 生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症など)
- がん
疫学的研究により、患者の家系内では、同一疾患罹患率が一般集団より高いことが知られています。家系内の血縁度が近いほど同一疾患罹患率は高く、対立遺伝子を共有する割合も高くなります。
その割合は、親子・兄弟姉妹で1/2、祖父母孫・叔父叔母甥姪で1/4、いとこでは1/8というように、血縁が遠くなるにつれて一般集団に近づきます。
このことから、多因子遺伝疾患の発症には遺伝要因が関与していると考えられますが、メンデルの遺伝形式に従わないので、発症様式は複雑です。
遺伝子型が全く同じ一卵性の兄弟姉妹間であっても、両者が同じ疾患にかかる率は100[%]ではなく、疾患一致率が100[%]に満たない部分は、環境要因の関与を示唆していると考えられます。
発症する人としない人の違い
2型糖尿病の遺伝学的素因―インスリンの分泌が低下しやすい、あるいはインスリン抵抗性を来たしやすい体質をつくる遺伝子―の量的、質的な違いによって、ひとりひとりの糖尿病に「なりやすい」体質の程度は異なります。
糖尿病家族歴が有る場合は、祖先から遺伝学的素因を受け継いでいる可能性が高いので、「なりやすい」体質を持っているリスクが高くなります。
現時点で血糖値が正常であれば、遺伝学的素因の量や環境要因との相互作用による「なりやすさ」の効果がどのくらい表現されているのか全く不明ですが、血糖レベルの上昇は、それを示唆します。
糖尿病と診断されるほどではないですが正常より少し高い血糖レベルは、「前糖尿病」状態、別の言い方をすれば「糖尿病予備軍」の状態にあります。
多くは糖尿病に移行しないものの、発症する人としない人の分岐点であることは確かです。では、この状態で何ができるのでしょうか。
糖尿病家族歴(遺伝学的素因)や加齢はどうすることもできませんが、環境要因を減らすことは可能です。低脂肪・低カロリーの食事と定期的な運動により、2型糖尿病の発症を予防できることが示されています。