患者にとっての「根拠に基づく医療」
日本では「根拠に基づく医療」と呼ばれる "evidence-based medicine; EBM" が提唱している医療のあり方は、
- 患者の価値観
- 患者の臨床的状況と環境
- 臨床研究によるエビデンス
- 医療者の専門性・経験
これら4つの要素について、互いにバランスを取りながら考え合わせ、患者にとってより良い医療が決定され、行われることを目指すものです。
エビデンスは、医療の意思決定をする上で基となる「根拠」のことで、実際に多数の人間で治療の有効性(効果)や安全性(副作用)を確かめた臨床研究の結果を指します。
研究結果はデータベース化されているので誰でも検索して入手可能ですが、患者としては、エビデンスをまとめた「診療ガイドライン」(Mindsで公開)を見るのが簡単です。
ここには、患者全体を見た時の一般論としての医療の指針となるステートメントとその推奨グレード、基となった「根拠」のエビデンスレベルが記載されています。
食事療法や運動療法は糖尿病治療の基本ですけれども、ある意味で修行のようなものですから楽な方法に流されやすいです。
このような時、エビデンスに裏付けされたステートメントを再確認したり、楽な方法の「根拠」を探して吟味して自分の状況に合うのか確認し、主体的に意思決定するのも患者の価値観のひとつだと思います。
「根拠」となる情報
患者の問題を解決するためにどのような情報が必要なのかは、PICO(ピコ)にあてはめて考えると明確になります。
- Patient:どのような患者に対して、
- Intervention:どのような介入(医療)を行ったら、
- Comparison:別のものと比較して、
- Outcome:どのような結果(効果や副作用)になったか。
患者(=人)を対象にした臨床研究が必要な情報源です。細胞や遺伝子の研究、動物実験の結果は対象外です。
患者の問題点が明確になった所で、次は問題の解決につながるであろう情報(臨床研究の論文)をオンラインデータベースから検索します。
患者の立場としては、まずは「診療ガイドライン」を見ることから始めるのがよいと思います。例えば低炭水化物食について調べたいとき、「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」の食事療法の項目を見てみます。
- ステートメント:一般論としての医療の指針
- 推奨グレード:ステートメントをどのくらいの強さで勧められるか
- 解説:臨床研究の結果(エビデンス)の評価
- 文献:臨床研究の出典とエビデンスレベル
「診療ガイドライン」の中の人の評価は、評価する人が異なっても大きな差異はないと思われます。ただし、新たな臨床研究が今までのエビデンスを覆すことは常ですので、評価が変わる可能性はあります。
情報の適用
「低炭水化物食」という情報を前にして何らかの意思決定をする時、その臨床研究のPICOは、自分のPICOと合致しているかを改めて確認します。ちなみに、英語の論文を読まないと確認できないと思います。
- Patient:研究の参加者(患者)は自分と似ているか。
- Intervention:研究の介入(医療)は自分でもできることか。
- Comparison:自分が選べる他の方法はあるか。
- Outcome:研究の結果(効果や副作用)は自分にとって重要か。
「低炭水化物食」のベネフィット(利益)とリスク(危険)も比較してみます。多くの物事には二面性があるもので、どちらかが恣意的に隠されているかもしれません。
また、自分が選べる他の方法で問題を解決できることも少なくありません。楽な方法ではないから選べないだけで。普通に食べて体重は減らしたい、運動する時間がない…とか。
患者の価値観や資源が突出してしまうと、バランスが悪くなってうまくいかないように感じます。偏り無くバランス良く、自分で自分のことを意思決定するのは難しいですね。