就寝前高血糖とレベミル®
ここ何年か、就寝前(夕食後4時間経過後の午後10時から11時くらいの)血糖値の多くは、200から300[mg/dl]です。
朝食前には100[mg/dl]前後まで下がっており、夜間あるいは早朝の低血糖も無く、これでHbA1c(NGSP)が7[%]を切っていますから、「現状維持で様子を見る」状況です。
とは言え、できるならもっと良い状態に近づけたいものです。基礎インスリン補充用のレベミル®(一般名インスリンデテミル)をもう少しうまく使う方法があるのではないかと思い、少し調べてみました。
注射インスリンへの過剰な期待
糖尿病と診断された後の1、2年は、インスリン治療を行っていれば普通の人と同じ生活ができる、と信じていました。
自分の膵臓からのインスリン分泌がある程度残っていましたし、生活に差し障るような症状も出ていなかったので、そう思っていたのでしょうね。
診断後1年で基礎インスリンの補充を開始してそれから約7年、インスリン注射とインスリン分泌は、決して同じ効果をもたらさないことを身体が教えてくれました。コントロールが難しい、ということです。
膵分泌インスリンの動態
膵臓から分泌されたインスリンの体内での流れは、おおよそ次のようなものです。
- 膵β細胞(インスリン分泌)→
- [膵静脈] → [門脈] →
- 肝臓(インスリンの作用)→
- [肝静脈] → [大静脈] →
- 心臓 →
- [大動脈] → [動脈] →
- 骨格筋や脂肪組織(インスリンの作用)
- 腎臓(インスリンクリアランス)
膵島周囲のグルコースレベルに応答して膵β細胞からインスリンが分泌し、門脈へ拍動性放出されます。その周期は3分から6分と常に一定で、食後のインスリン要求が増えた場合には、その振幅(分泌量)を大きくして対応します。
膵β細胞から分泌されたインスリン、小腸から吸収されたグルコースを含むすべての栄養素は、門脈から肝臓へ入ります。したがって、インスリンは、最初に肝臓を通過することになります。
肝臓は、インスリンの50[%]以上を(インスリン受容体と結合することにより)消費します。肝細胞の数は約2500億個と言われていますので、そうなのでしょう。
インスリン製剤の皮下注射に膵分泌インスリンと同じ動態を求めるのは、あまりにも酷というものです。
インスリンアナログ
膵分泌インスリンの動態と同じにはできませんけれども、膵インスリンの分泌パターンを模倣するように開発された注射インスリン製剤が「インスリンアナログ」です。
追加インスリンに相当する短時間作用性のインスリンは、超速効型インスリンとして下記の3種類があります。食直前の注射が可能になったことで、コントロールは従来より楽になりました。
- インスリンリスプロ(ヒューマログ®)
- インスリンアスパルト(ノボラピッド®)
- インスリングルリジン(アピドラ®)
基礎インスリンに相当する長時間作用性のインスリンは、持効型溶解インスリンとして下記の3種類があります。
- インスリングラルギン(ランタス®)
- インスリンデテミル(レベミル®)
- インスリンデグルデク(トレシーバ®)
持効型インスリンの薬理作用が
- 1日1回の注射で、
- インスリン作用が24時間持続し、
- 個体内および個体間において、その効果が一定であること。
を満たせば、超速効型インスリンと持効型溶解インスリンの組み合わせで、膵インスリンの分泌パターンをより簡単に模倣させることが可能になるであろうと考えられます。
さらに肝臓特異的であれば理想的ですが、肝臓のインスリン受容体も骨格筋のそれも同じですから、無理というものですね。
レベミル®の特異な性質
筆者はノボラピッド®とレベミル®の組み合わせで使っており、就寝前には血糖値が200とか300[mg/dl]くらいまで上昇します。
HbA1cとインスリン用量の推移を振り返ると、5-5-5-4単位の時期が長く続き、2014年に10-8-6-10単位まで増え、2015年5月現在8-8-6-8単位です。用量が少ないことから、インスリン分泌が未だ残っていることがわかると思います。
さて、レベミル®は、低用量ほど効果が期待できる作用持続時間が短いと言われます。筆者の用量は0.12[IU/kg]であり、0.4[IU/kg]以上でないと1日1回の注射で済むとは言えないようです。
どう定義するかによって「作用持続時間」は違ってきます。ある血中インスリンデテミル濃度にまで低下したときの投与後経過時間を作用持続時間とすれば、確かにそのとおりです。
レベミル®投与後の血糖値が150[mg/dl]以上に上昇するまでの時間を作用持続時間と定義すれば、24時間持続するようです。
結局、夕食後から就寝前にかけて血糖上昇するのは、インスリン作用が不足しているからであって、2、3日絶食してレベミル®のみでの血糖値変動を確かめるまでもないですね。
レベミル®を1日2回注射する、という使い方もあるようですが、現時点では、頭の隅に入れておくだけにしておきます。