HbA1cも糖尿病診断基準のひとつ
2007年10月、筆者は糖尿病と診断されました。初診時の検査値や症状は、以下のとおりでした。
- 随時血糖値:432[mg/dl]
- HbA1c(JDS値):11.8[%]
- 口渇、多飲、多尿、体重減少といった典型的症状有り
当時の診断基準(1999年版)に当てはめると、血糖値もHbA1cも明らかに高値で、別の日に血糖値の糖尿病型判定を行わなくても「糖尿病と診断できる」状態でした。
2010年7月1日から施行された新しい診断基準は、基本的に1999年版と同じですが、診断の補助的指標だったHbA1cが糖尿病型判定の指標として組み入れられました。
2012年版は、HbA1c国際標準化を踏まえた診断基準になっています。
臨床診断基準2010年版
糖尿病は、絶対的あるいは相対的インスリン作用不足に起因して糖代謝や脂質代謝、蛋白質代謝などほとんどの代謝系に異常を引き起こす代謝疾患群
です。
代謝異常の中でも、糖代謝異常による慢性的な高血糖が主たる特徴であることから、糖尿病の診断とは、第一に慢性高血糖を確認することに他なりません。
2010年版では、慢性高血糖を確認する検査として、血糖値の他に新たにHbA1cを取り入れました。
HbA1cの上昇は慢性的な高血糖を反映する指標そのものなのですが、血糖値によって糖尿病型と判定された群のHbA1c値は幅広く分布しており、HbA1c単独での診断はできません。
それでも、血糖値のように食事時間と採血時間の関係が影響しない点や日々の変動が血糖値より少ない、網膜症の発症リスクとの関係性は血糖値のそれと同等という利点もあり、HbA1cを診断の指標としたようです。
- 糖尿病型の判定基準
-
-
血糖値
- 空腹時血糖値[注1] ≧126[mg/dl]
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT; oral glucose tolerance test)2時間値 ≧200[mg/dl]
- 随時血糖値[注2] ≧200[mg/dl]
-
HbA1c
- HbA1c(国際標準値) ≧6.5[%]
- HbA1c(JDS値) ≧6.1[%]
初回検査で、A.a, A.b, A.c, B.a, B.b のうちいずれかを認めた場合は、糖尿病型と判定する。
なお、検査結果の判定と糖尿病の診断とは別物であることから、判定には「型」を付けます。 他の判定の型として、正常型と境界型があります。
- [注1]:前夜から何も食べないで10時間以上経過して朝食前に測定した血糖値のこと。
- [注2]:随時血糖値は空腹時や食前、食後というような採血時間と食事との時間関係を問わない。
-
血糖値
1. 別の日に再検査を行ない、再び糖尿病型が確認されれば糖尿病と診断する。ただし、HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする。
2. 血糖値とHbA1cが同一採血で糖尿病型を示すことが確認されれば、初回検査だけでも糖尿病と診断してよい。(A.a, A.b, A.c のいずれかとB.a, B.b のいずれかの組み合わせ)
- その他の症状
-
- 糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
- 確実な糖尿病網膜症の存在
3. 血糖値が糖尿病型(A.a, A.b, A.c のいずれか)を示し、かつ上記 i, ii のいずれかの条件が満たされた場合は、初回検査だけでも糖尿病と診断できる。
4. 過去において、上記1., 2., 3. のいずれかの条件が満たされていたことが確認できる場合には、現在の検査値が条件に合致しなくても糖尿病と診断する。または、糖尿病の疑いを持って対応する必要がある。
5. 上記1. から4. によっても糖尿病の判定が困難な場合、糖尿病の疑いを持って3~6ヶ月以内に血糖値とHbA1cを同時に測定して再判定する。
- 検査結果判定の留意点
-
- 初回検査の判定にHbA1cを用いた場合、再検査ではそれ以外の検査方法を含めることが診断に必須である。
- 検査は原則として血糖値とHbA1cの両方を測定することとする。
- 空腹時血糖値を判定に用いる場合は、絶食条件の確認が特に重要である。
- 初回検査の判定を 随時血糖値≧200[mg/dl] で行なった場合、再検査は他の検査方法を用いることが望ましい。
臨床診断基準1999年版
以下は、1999年に発表された「糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告(日本糖尿病学会)」によるものです。
この時点で既にHbA1cを糖尿病診断の補助手段として取り入れられており、日本国内ではHbA1c測定の標準化がなされていたことがわかります。
後に、HbA1cは糖尿病の診断基準に格上げされることになります。
- 糖尿病型の判定基準
-
-
血糖値
- 空腹時血糖値≧126[mg/dl]
- 75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値≧200[mg/dl]
- 随時血糖値≧200[mg/dl]
A.a, A.b, A.c のうちいずれかを認めた場合は、糖尿病型と判定する
-
血糖値
1. A.a, A.b, A.c のいずれかが、別の日に行なった検査で2回以上確認された場合、糖尿病と診断してよい。
- 症状やその他の検査
-
- 糖尿病の典型的症状(口渇、多飲、多尿、体重減少)の存在
- HbA1c(JDS値)≧6.5[%]
- 確実な糖尿病網膜症の存在
2. 血糖値が糖尿病型(A.a, A.b, A.c のいずれか)を示し、かつ i, ii, iii のいずれかの条件を満たした場合は、糖尿病と診断できます。
3. 過去において上記1. または2. の条件が満たされていたことが確認できる場合は、現在の検査結果にかかわらず糖尿病と診断する。
糖尿病予備群に注意
企業や自治体などで受ける健康診断は、胃検診があることもあり前日の夜から何も食べない状態で受診するはずですから、血糖測定は多くの人の場合、空腹時血糖値になると思われます。
空腹時血糖値が正常値だからといって安心はできません。食後の血糖値が180[mg/dl]前後になっている場合もあるからです。
健康な人では、食後の血糖値はせいぜい140[mg/dl]どまりで、食後2時間以上経過すれば正常域に下がります。
空腹時は正常血糖値でも、食後に180[mg/dl]前後、またはこれ以上になってしまうかどうかは、75g経口ブドウ糖負荷試験を行わないとわかりません。
その試験結果は、正常型、境界型、糖尿病型に分類されます。境界型の人が糖尿病を発症する割合は、正常型の人にくらべ有意に高いことがわかっているため、境界型の人を糖尿病予備群とも言います。
2008年9月28日追記:「糖尿病・糖代謝異常に関する診断基準検討委員会報告(2008年)空腹時血糖値の正常域に関する新区分」によると、空腹時血糖値<110[mg/dl]の正常域であっても空腹時血糖値100から109[mg/dl]の群では耐糖能異常である者が多いことから、この区分のものは空腹時血糖正常域の中で「正常高値」と呼ぶこととした。
- 正常高値
-
空腹時血糖値が100から109[mg/dl]
この集団については、OGTT(75g経口糖負荷試験)を行うことにより、正常型、境界型あるいは糖尿病型のいずれに属するかを判定することが勧められる。OGTTが行われるまでは、正常高値として観察し、個々の症例の病態や経過に応じて適切な生活習慣指導や肥満の是正などが行われるべきである。