食事療法を長続きさせるコツ
糖尿病の食事療法についての本は、
1日の摂取カロリーのうち、炭水化物で55~60[%]、たんぱく質を15~20[%]、脂肪は25[%]以下を目安に摂りましょう。
バラエティーに富んだ食生活にするために食品交換表を活用しましょう。
食品交換表では1単位=80[kcal]です。
など、とても面倒だと思われることをサラッと言っています。
メニューを考えて、材料を選んで、カロリーに合わせて材料の重さを計って、栄養配分して、買い物して、料理して、盛り付け時に重さを計って、なんて事をやっていたら食事をするために1日が終わってしまいます。
一般的に言われている食事療法のやり方は、理想的過ぎて面倒くさいので長続きしないと思うのです。ですから、手を抜くことができるところは、手を抜くべきです。
食事療法の基本
糖尿病患者はインスリン効果が不足している、つまり耐糖能が正常ではないため、食事を摂ったことによって急に増えた血液中のグルコース濃度(血糖)を正常域に治めることができません。
必要な栄養素を過不足なく摂取した上で、インスリン効果が不足しない程度の食事を摂ることが求められます。
- 食事療法に求められること
-
- 必要な栄養素を摂取できること
- 身体活動に必要なエネルギーを確保できること
- 1.と 2.を満たした上でインスリン効果が不足しないこと
人は、体の構成成分を作り出す(生合成)ことができますけれども、生合成不可能なものについては、体外から栄養素として摂取しなければなりません。
- 必須アミノ酸
- 必須脂肪酸
- ビタミン(酵素活性に必要な補酵素)
- ミネラル(炭素、窒素、酸素、水素以外の必須な元素)
以上の栄養素は、毎日の食事から摂る必要があります。
生合成可能なものであっても食事から過不足なく摂取できているのであれば、代謝の効率が良く、「栄養バランスの取れた食事をしている」と言えます。
また、体の元(基)に不可欠な栄養素だけでなく、活動エネルギーも必要で、これも毎日の食事から摂る必要があります。
身体のエネルギー需要以上に摂取したグルコースは、グリコーゲンや中性脂肪として貯蔵されます。空腹時には、グリコーゲンを分解してグルコース、あるいは中性脂肪を分解して脂肪酸といったエネルギー源に変換して対処します。
エネルギー不足が長期間になると、タンパク質(筋肉)分解がタンパク質合成を上回り、筋肉量が減少します。タンパク質を分解したアミノ酸は、肝臓で糖新生の材料になるからです。
一見、体重が落ちて良いことのように思えますが、骨格筋はグルコースの消費組織ですのでインスリン効果も減少します。過剰な食事制限は避けるが吉です。
以上のことを踏まえ、内服薬やインスリン注射、運動によるインスリン効果の補完を考慮しつつ、食事の量および内容を考えます。
食事の量
年齢や性別、身長、体重、日常の身体活動の程度を基に、1日の総エネルギー量の初期設定(仮決め)をします。
国際単位系におけるエネルギーの単位はジュール[J]ですけれども、栄養学では熱量の単位であるカロリー[cal]が用いられていますし、食品もカロリー[cal]で表示されています。
換算が面倒になるだけで別にグラム[g]でもキロワット時[kWh]でもよいのですが、カロリー[cal]の使用が最も扱いやすいと思います。
- 1日のエネルギー量の目安
-
- エネルギー摂取量[kcal] = 標準体重[kg] × 身体活動指数[kcal/kg]
ここで、
- 標準体重[kg]={身長[m]×身長[m]}×22
-
身体活動指数[kcal/kg]
- 軽度(事務仕事):25~30
- 中度(立ち仕事):30~35
- 重度(力仕事):35~40
このエネルギー摂取量を目安にして、個々の食事に落とし込みます。
体重計と計量器を準備します。食事から摂取したカロリーを直接計測することは難かしいですから、この2つで代替します。
体重は、起床直後など一定条件のもとで毎日計測し、記録します。
エネルギー摂取量より活動エネルギー量が小さければ体重は減らないし、エネルギー摂取量より活動エネルギー量大きければ体重は減っていくはずです。
また、昨日と今日で1kgくらい変化することは普通にあります。1ヶ月単位くらいの長いスパンで体重の変化を把握するのが良いと思います。
エネルギー摂取量の絶対値はわかりませんけれども、摂取したエネルギーの収支は、体重の変化として表れるはずです。体重が一定になった時、エネルギー摂取量と活動エネルギー量は等しい、と考えられます。
筆者は「食品交換表」を実践するため、調理前の材料や口に入れる前の食べ物は、とにかく量って記録しました。データとしては非常に有用なものになるのですけれど、とてつもなく面倒なことなので勧められません。
最終的にどうなったかというと、主食のごはんの量だけを計って食べるようになりました。おかずは、ごはんの量に見合う分を食べたら終わりにしています。ただし、炭水化物を多く含むおかずは、量を控えます。
筆者は1型糖尿病ですので、血糖自己測定値が食欲を制御してくれますが、2型糖尿病の人は、食事療法の評価の指標が月1回程度測定するヘモグロビンA1cのみなので、食事の量と結果が一致しにくく、この辺がつらいのではないかと思います。
最低限として主食のごはんの量を、できればおかずの品目毎の量も記録して、結果と比較しながら調整していくしかないです。
食事の内容
糖尿病患者は耐糖能が落ちていますので、健康な時には普通に行っていた1回で多くの量を食べる「ドカ食い、まとめ食い」 はもうできません。
1日3回の食事と腹八分目を基本として、調整すればよいと思います。
1日のエネルギー摂取量の範囲内で栄養素をどう配分するか、ここは思想・信条、嗜好の問題でもあります。
「糖尿病治療の手びき」では、総エネルギー量(カロリー)の55~60%を炭水化物とし、たん白質は15~20%、脂肪は25%以下とするのが目安
と言っています。
- 1年を通して適正体重が維持される。
- 1日のエネルギー摂取量が決められる。
- 1回の食事の量は比較的少な目に制限される。
理路整然と考えていけば、1回の食事の量は少なくなっていくわけで、その範囲内で過不足なく栄養素を摂るとなると、1回の食事において偏った栄養素配分は避けなければならないことは必然です。
食事療法の初めは、「糖尿病治療の手びき」のとおりの栄養素配分の目安程度から始め、データを記録し、データをもとに調整すればよいと思います。
主食のごはんの量を1食200[g]とか180[g]とかきちんと決めて(最初は仮決めになりますけれども)、毎回計量して食べるようにすれば、配分比率が大きく外れることにはならないはずです。