インスリン作用の不足を補えば糖尿病の代謝異常は改善する…はず

はじめに
インスリン作用の不足を補おうとした時、患者が違えば不足の程度や生活習慣も異なる訳で、病態改善のベストプラクティスは、自分の体で試して見つけていくしかないですね。

糖尿病は、糖、脂質、タンパク質の代謝が関与する代謝疾患群です。これらに共通する特徴はインスリン作用の不足に基づく慢性の高血糖状態であり、インスリンの供給不全、インスリンが作用する臓器・細胞におけるインスリン感受性の低下、またはその両方の組み合わせの結果として生じる代謝異常のひとつです。インスリン作用の不足を軽減することができれば、代謝異常は改善するはず。

糖尿病の自然史

糖尿病は、インスリン作用の不足に基づく慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群である。この疾患群の共通の特徴はインスリン効果の不足であり、それにより糖、脂質、蛋白質を含むほとんどすべての代謝系に異常を来す。 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 - 日本糖尿病学会誌第55巻第7号(2012)

1. インスリン作用の不足:糖尿病は古くから知られていましたが、現在で言うところの1型糖尿病がケトアシドーシスによる昏睡からの死を待つ病気ではなくなったのは、インスリンの発見(1921年)以降のことです。

当時、実験に犬が使われていました。膵臓を全摘除した糖尿病犬に膵臓から抽出した物質を静脈に投与したところ、血糖降下作用が認められました。翌年(1922年)には、膵臓抽出物質(後にインスリンと命名)を糖尿病患者に投与しても同様の作用が認められ、尿中ケトン体も消失しました。

この実験から、少なくともインスリンが体に全く「無い」状態では糖尿病になり、「有る」と糖尿病の症状が改善することがわかります。インスリンが体に作用するメカニズムは未だわからない状況でしたので、インスリンの何らかの作用が糖尿病患者を死の淵から救ったことは確かです。

インスリンが体に全く「無い」状態と体に十分に「有る」状態の間には、糖尿病と健常人を分けるゾーンが存在すると考えられますが、持続的な高血糖や多尿、体重減少、尿中ケトン体などが消失するであろうインスリンの投与量は、個々の患者で異なることをすぐに気付いたと思います。

けれども、投与されたインスリンの量に相当する何らかの作用の分だけ患者の体に不足があったことは事実で、インスリン作用の不足を補えば慢性の高血糖状態などの異常が改善する、あるいはインスリン作用の不足によって慢性の高血糖状態などの異常が起こった状態が糖尿病である、とも言えます。

2. 代謝疾患群:糖尿病は、糖、脂質、タンパク質の代謝が関与する代謝性疾患の一群で、これらはインスリン作用の不足に基づく代謝異常が病的なレベルで起こった状態にあり、主たる特徴は慢性の高血糖状態です。

インスリンの作用は糖、脂質、タンパク質を含むほとんどすべての代謝系に及ぶため、これら代謝系の異常に基づく所見、症状、疾患が起こり得ます。体内の変化のうち治療中の患者が気にするのはほぼ高血糖ですから、代謝性疾患の「卵」を温めていることを忘れてしまう感じがあります。

代謝異常の程度が軽くても重くても、要は糖尿病である限り、糖尿病特有の合併症(網膜や腎臓の糸球体、神経などの細小血管の機能・形態的異常)や急性代謝失調(ケトアシドーシスや高浸透圧高血糖症候群など)を発症するリスクからは逃れられません。

糖尿病腎症などは糖尿病と診断された時点で病期が第1期となり、その治療は血糖コントロールで、目的は腎症の進行予防です。また、糖尿病は動脈硬化症を促進するので、それが原因の脳卒中や狭心症・心筋梗塞、閉塞性動脈硬化症などの発症リスクも増加します。

3. インスリン効果の不足:インスリンが体にほとんど「無い」状態では、インスリンが代謝系に及ぼす作用によって生じる効果は、ほぼ期待できません。また、十分に「有る」状態では無い場合はそれなりの効果しか期待できず、どちらもインスリン作用の不足が生じています。

このインスリン作用の不足状態を生じさせる糖尿病に共通する身体的特徴は、代謝系の入力となるインスリンレベルが小さいこと(インスリンの供給不全)、代謝系のインスリン作用に対する感度すなわちインスリンレベルとインスリン効果の比が低いこと(インスリン感受性の低下)です。

インスリン分泌が純粋に低下している場合は、恒常性維持のために体が必要としているインスリンの需要に対して十分なインスリンを供給できません。インスリン分泌に欠陥がなくても、過剰なインスリンの需要に対して供給が追い付かない場合もあります。

また、インスリンが作用する臓器や細胞において、その作用の効率は一定ではなく、インスリン作用を阻害する諸因子が過剰であったり、インスリン作用の発現機構に異常があったりする場合があります。

あるいは、インスリン供給の不良とインスリン作用に対する抵抗性の組み合わせの結果、インスリン作用の不足が起こる場合もあるでしょう。

  • インスリンの供給不全(インスリン分泌障害)
    • 絶対的:インスリン分泌が純粋に低下している場合
    • 相対的:過剰なインスリン需要に対して分泌が追いつかない場合
  • インスリンが作用する臓器・細胞におけるインスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)

括弧内は、インスリン作用の不足状態を指す臨床的用語です。

1型は膵臓ランゲルハンス島β細胞の自己免疫性の破壊によってインスリン作用の不足が生じ、2型はインスリン分泌障害とインスリン作用に対する抵抗性に起因するとされますが、1型でも治療中のインスリン注射に対するインスリン抵抗性を感じることがありますね。

4. 代謝異常:インスリンの供給不全やインスリン感受性の低下により、糖代謝異常の高血糖は言うまでも無く、タンパク質代謝ではタンパク質分解が、脂質代謝では脂肪分解やβ酸化が亢進するなど様々な異常が表れます。

糖尿病の代謝異常を最もよく表す特徴のひとつは慢性の高血糖状態ですが、血糖値が著しく高くなるような代謝状態に至るまで自覚症状が表れないので、血糖検査を受けなければ代謝異常や糖尿病に気付きません。

血糖値(空腹時値や75[g] OGTT 2時間値、随時値)の高低が糖尿病の診断あるいは定義として用いられているためか、「血糖値が高くなる病気」と誤解されることが多いです。現実は、代謝性疾患の集合体です。

5. インスリン作用の不足を軽減:インスリン作用の不足を小さくすると、代謝異常は改善する方向に向かいます。インスリン作用の不足を軽減できる治療手段は、言うは易し行うは難しの次の3つです。

  • 食事療法:バランスの取れた食事を摂る
  • 運動療法:身体活動を高める運動を行う
  • 薬物療法:インスリン注射や経口血糖降下薬を服用する

治療手段は提示されますが、ああしろこうしろと言われることはないでしょう。治療内容は、患者自身が試行錯誤して見つけるしかないのが現状だと思います。私の糖尿病とあなたの糖尿病には違いがありますから、この事を前提にしないで治療内容を語ることはできません。

6. 管理された糖尿病:糖尿病は治りませんが、インスリン作用が不足した結果として発症するかもしれない代謝疾患群を予防するために、コントロールすることはできます。コントロールすれば発症しないということではなく、発症リスクが低下するという意味です。

辛い…ですね。

糖尿病の診断

現在の糖尿病の概念は、インスリン作用の不足に基づく種々の特徴的な代謝異常を伴う疾患群であるという認識で一致していると思われます。慢性の高血糖状態耐糖能の低下を示す代謝異常があって、この疾患概念に合致する時、糖尿病と診断されます。新しい知見が認められれば、その概念や判定方法と基準は改められます。最近では、HbA1c が血糖の糖尿病型判定に取り入れられました。

糖尿病の診断

糖尿病の疾患概念に合致する人は糖尿病を有する、と判断できる訳ですが、疾患概念自体が新しい知見を踏まえて認識を改めてきました。当然、診断基準も新たな概念や知見を基に検討され、変更されてきました。

現在、糖尿病型と判定される空腹時血糖値は 126[mg/dl] 以上です。1980年代は、網膜症発症リスクが 140[mg/dl] 程度から著明に増加することから、140[mg/dl] 以上が糖尿病型でした。現在の判定基準が低めの設定の理由は、予防的見地を含めたことにもあるようです。

…今回この基準値を採用したのは①糖尿病(型)と判定する基準値はなるべく国際基準値に合わせる必要があること、②…網膜症のリスクが著明に高まる以前から治療を開始し、血糖値がそこまで上昇するのを防ぐのが望ましい、と考えたからである。 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 - 日本糖尿病学会誌第55巻第7号(2012)

代謝は、細胞が置かれた環境(簡単に言えば血液)に影響を受けます。インスリン作用の結果、骨格筋では血液からグルコースを取り込んだり、肝臓では血液へグルコースを放出(糖新生)したり、細胞からすればこれが普通の代謝であり、代謝異常と言われるのは心外でしょうね。

代謝が正常か異常かを判断しているのは体外の「観察者」の考え方次第なのですから、糖尿病患者としては、体内で何がどうなって血液中のグルコースが増えるのかを想像逞しく妄想しつつ、インスリン効果を上げるために試行錯誤することが有益かと思います。

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定義と分類

インスリンの絶対的または相対的供給不全とインスリン抵抗性を機序とするインスリン効果の不足は、糖尿病に共通して認められる身体的特質のひとつです。それに因る代謝系の異常のうち、特に糖代謝異常(慢性の高血糖状態と耐糖能の低下)は糖尿病のすべての病期で見られる特徴的な病態なので、糖代謝異常を判定するアルゴリズムによって糖尿病の有無が定義されています。

定義と分類

糖尿病の自然史(Natural history)を源流まで遡ると、そこには単一あるいは複数の遺伝因子およびその下流に環境因子が存在すると考えられます。

単一の遺伝子異常が原因の MODY(若年発症成人型糖尿病)は、出生時からその人における Natural history of diabetes が始まります。糖尿病と糖代謝異常の成因(発症機序)のうち、「特定の機序や疾患によるその他の型」の「A. 遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの」に分類されます。

糖代謝異常の悪化は正常域の正常血糖から糖尿病域の高血糖へと連続的に進行していき、MODY では通常、25歳以下の若年で発症します。言い換えれば、糖代謝異常を判定するアルゴリズムを適用して糖尿病が有ると判断された時点がそうです。

遺伝子検査で確定診断された MODY は、正常血糖や境界域の高血糖の期間であっても「予約された」糖尿病であることに変わりはなく、耐糖能異常や空腹時血糖異常などを判断する絶対的な血糖閾値は、あまり意味を持たなくなります。合併症予防や治療のために早期のアプローチができるからです。

一方、複数の遺伝因子が存在すると考えられる糖尿病は、「特定の機序や疾患によるその他の型」以外の、膵β細胞が破壊されて通常はインスリン欠乏に至る「1型」と、インスリン分泌低下とインスリン感受性低下の両方が関与する「2型」がそうです。

1型糖尿病:おもに自己免疫を基礎にした膵β細胞の破壊性病変によりインスリンの欠乏が生じて発症する糖尿病である。HLA などの遺伝因子にウイルス感染などの何らかの誘因・環境因子が加わって起こる。… 膵β細胞の破壊が進行して、インスリンの絶対的欠乏に陥ることが多い。 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 - 日本糖尿病学会誌第55巻第7号(2012)

2型糖尿病:インスリン分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に、過食(特に高脂肪食)・運動不足などの生活習慣、およびその結果としての肥満が環境因子として加わりインスリン作用不足を生じて発症する糖尿病である。 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 - 日本糖尿病学会誌第55巻第7号(2012)

「1型」と「2型」が「予約された」糖尿病になるためには、遺伝因子となり得る遺伝的変異の同定、特定の環境要因と糖尿病につながる病態生理との因果関係の定義、遺伝因子と環境因子の相互作用メカニズムの解明、などの非常に困難な研究が必要であると考えられます。

高血糖や糖尿病家族歴、肥満、高血圧、脂質異常症などの危険因子を持つ境界域の者ほど将来糖尿病を発症する可能性が高いことは既にわかっており、今でも検診を通して早期アプローチが取り敢えず可能な状況にはあるので、遺伝因子と環境因子に関連する研究が進むのかはわかりません。

過去(1980年代以降)の分類は、急速に発症して治療上インスリンが必須の「インスリン依存型(I型)」と緩やかに発症して治療上必ずしもインスリンが必要ではない「非インスリン依存型(II型)」でした。1999年以降の分類は、「1型」と「2型」です。

現在、糖尿病とは代謝異常の程度が慢性合併症のリスクを伴う段階に至ったものとして捉え る考え方が糖代謝異常を判定するアルゴリズムに反映されており、空腹時血糖値や75[g]経口糖負荷試験(OGTT)2時間値、随時血糖値の閾値を超えるかどうかによって糖尿病の有無が定義されています。

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兆候と症状

インスリン作用の不足に基づく代謝異常、特に糖代謝の結果を反映する血糖レベルは、正常域から境界域、そして糖尿病域へと連続的、可逆的に進行します。進行が緩やかな2型の場合、発症の前段階として空腹時血糖値の軽度上昇尿糖陽性などが兆候として観察できます。血糖値が著しく高い状態になってやっと、口渇多飲多尿体重減少といった気付きやすい自覚症状が表れます。

兆候と症状

血糖値が著しく高くなるような代謝状態では口渇、多飲、多尿、体重減少が見られる。最も極端な場合はケトアシドーシスや著しい高浸透圧・高血糖状態を来たし、ときには意識障害、さらに昏睡に至り、効果的な治療が行われなければ死に至ることもある。 糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告 - 日本糖尿病学会誌第55巻第7号(2012)

インスリン作用の不足に基づく代謝異常、これは 糖代謝、脂質代謝、タンパク質代謝を含むほとんどすべての代謝系に異常を来たす からなのですが、この変化が生じた時、血液中には通常の代謝で産生されている代謝産物が過剰に蓄積されます。

  • グルコースの蓄積(高血糖)
  • リポタンパクの蓄積(高トリグリセリド血症)
  • ケトン体の蓄積(高ケトン血症)

糖尿病状態の代謝は、栄養を摂取できない飢餓状態にも認められる、環境に適応した代謝経路と言えますが、インスリン作用の不足のために食事から摂取したグルコースをうまく利用できないところが糖尿病であり、利用されないグルコースは血液中に滞りがちになります。

高血糖と多尿、口渇、多飲、体重減少
利用できないのは無いと同じなので、体内のタンパク質や脂肪を分解した物質を材料にしてグルコースを合成(糖新生)します。体内で合成されたグルコースも当然利用できず、過剰な血中グルコースの行き先は、腎臓から尿と一緒に排泄され体外へ、その時に大量の水分が失われます。
体内の水分を大量に奪う多尿には口渇が伴い、口渇は水分の大量摂取(多飲)を誘引し、多飲により多尿が維持される…過剰な血中グルコースが存在する限り、多尿、口渇、多飲が繰り返されます。この気付きやすい症状の裏には、タンパク質や脂肪の分解亢進(体重減少)が存在します。
通常、体内で利用されないグルコースは、中性脂肪(トリアシルグリセロール、別名:トリグリセリド)に姿を変えて脂肪組織に貯蔵されますが、インスリン作用が不足している体では脂肪が分解する方向に代謝が傾いているため、腎臓から排泄されるのを血液中で待っているしかありません。

グルコースをエネルギー源としてうまく利用できなくなる一方で、脂肪分解の亢進によりトリアシルグリセロールを分解して得られた脂肪酸は、血中では遊離脂肪酸となり各組織に運ばれてエネルギー源として使われる物質ですけれども、過剰に存在することになります。

肝臓に運ばれた遊離脂肪酸は、インスリン分泌が低下している体では脂肪酸が分解する方向に代謝が傾いているので β 酸化のプロセスに乗ります。脂肪酸分解の処理能力を上回った場合、処理できない脂肪酸はリポタンパク合成のプロセスに向かいます。

高トリグリセリド血症
β 酸化のプロセスに乗れない脂肪酸は、トリアシルグリセロールに合成され、コレステロールやコレステリルエステルと共にリポタンパクという親水性の「容器」に入れられます。リポタンパクは、血液中を循環して末梢組織に「内容物」を運ぶ役目をしますが、代謝されずに蓄積します。

脂肪分解の亢進により過剰になった遊離脂肪酸は、肝臓に運ばれてくると β 酸化のプロセスを経て最終的にアセチル CoA になりますが、アセチル CoA は次から次へと生成されることになります。

通常の条件下のアセチル CoA は、TCA 回路でさらに酸化され、生じた NADH や FADH2 が酸化的リン酸化の過程において ATP を産生するために利用されるのですが、インスリン作用が不足している体ではそう簡単に進みません。

高ケトン血症
インスリン作用が不足している肝臓では糖新生が亢進しているため、アセチル CoA が進むであろう TCA 回路で使われる予定の中間代謝物が糖新生に振り向けられるので TCA 回路がうまく回らない、あるいは TCA 回路の処理能力を上回る過剰なアセチル CoA が生成されることになります。
処理待ちの過剰なアセチル CoA は、TCA 回路とは別のプロセス、3種類のケトン体が合成されるケトン生成のプロセスに進みます。そのうちの2種類は、末梢組織でアセチル CoA に再変換され、ATP を産生するために利用されます。

私は、多尿、口渇、多飲、体重減少といった糖尿病の典型的な症状を一年以上放置した後に緩徐進行性1型糖尿病と診断されました。診断時の検査値は以下のとおりで、尿中ケトン体は陽性だったものの高ケトン血症までには進展していなかったと思います。

  • 随時血糖値 432[mg/dl]
  • HbA1c(JDS)11.8[%](NGSP 値換算で 12.3[%]、空腹時血糖値に換算すると 300[mg/dl] 程度)
  • 尿中ケトン体 1+

糖尿病の典型的な症状は、インスリン作用の不足をインスリン注射で補うことが必要とされるところまで急速に進行する糖尿病、主に1型の発症エピソードで見られます。進行速度がとても緩やかな2型は、発症の手がかりとなる血糖値や尿糖の検査を行う十分な時間と機会があります。

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予防と治療

糖代謝異常が境界域(前糖尿病状態)の場合、糖尿病へ進展する過程にある可能性が高いです。糖尿病の自然史では、環境要因がインスリン作用の不足を誘因した、あるいは促進させたと考えられますが、何が個々人の危険因子だったかは不明です。しかし、集団で見れば、食事運動で肥満を解消すると発症予防に効果があることは、疫学的に明らかです。治療も食事療法運動療法が基本です。

予防と治療

糖尿病の代謝異常は、インスリン作用の不足を軽減してくれるであろう三つの治療手段を実践することにより、改善が期待されます。

  • 食事療法
  • 運動療法
  • 薬物療法

糖尿病発症の過程にある人もそうで、糖尿病の前段階(前糖尿病)の時期にバランスの取れた食事を摂り適度な運動を継続すれば、代謝の改善が期待できます。糖尿病と診断される血糖値や HbA1c の閾値を超えてしまうまでの時間を延ばす、つまり、発症を遅らせることが可能であると。

現在のところ、MODY(若年発症成人型糖尿病)などの単一遺伝因子としての遺伝子異常が判明した場合を除き、発症の過程にある人を確定することは困難ですが、発症と関連を持ついくつかの危険因子(リスクファクター)が疫学的に証明されています。

リスクファクターとは、疾病の起こりやすさと関連を持つ個人的な特性、習慣、曝露などを意味する言葉です。通常、リスクファクターには変化が可能なものが多いため、それを改善することが疾病の起こる確率を減らすことにつながります。2章 健康と疾病の測定指標 - WHO の標準疫学

2型糖尿病の発症エピソードの多くは、インスリン抵抗性が増加する状況において、膵β細胞の代償的インスリン過分泌で対応することで正常血糖を維持しますが、いずれインスリン分泌障害を来たして十分なインスリンを供給できなくなり、耐糖能異常や血糖上昇が表れ、発症に至るというものです。

インスリン抵抗性
血中インスリン濃度から想定される血糖降下作用ほどには血糖値が下がらない状態のことで、インスリン分泌障害(絶対的または相対的なインスリン分泌の低下により血糖値が下がらない状態)と対となる、インスリン作用の不足状態を指す臨床的用語。

糖代謝異常が前糖尿病状態の集団には、1. 糖尿病発症の過程にあるであろう人、2. インスリン抵抗性を持つ人、3. 治療によって代謝異常が改善した糖尿病患者、4. ストレスなどで耐糖能が一時的に悪化した健常者、5. 糖尿病以外の疾患に伴って耐糖能が低下した患者、などが含まれます。

「1. 糖尿病発症の過程にあるであろう人」の特性は、インスリン分泌障害とインスリン抵抗性の両者が関与していることで、関与の割合は個々で異なります。インスリン抵抗性が主体で、これに相対的なインスリン分泌低下を伴う場合は、欧米人のような肥満という特性も持つかもしれません。

「2. インスリン抵抗性を持つ人」の特性は、インスリン抵抗性が増加する状況において数年経過しても糖代謝異常の悪化が進行せず、膵β細胞が代償的インスリン過分泌に十分対応できることです。日本人は欧米人と比較してインスリン分泌能が低く、該当する人の割合は多くはないと考えられます。

さて、糖尿病発症のリスクが大きい集団を予防プログラムの対象とするために、適切なカットオフ値を設定してスクリーニングを実施し、加えて上記 3. から 5. に該当する人を除外します。この集団に対して危険因子をコントロールするプログラムを実行すれば、発症の遅延(予防)が期待できます。

インスリン分泌障害やインスリン抵抗性、膵β細胞の自己免疫性破壊などに関係する遺伝要因を持っていたとしても必ず発症する訳ではなく、発症を誘因したり促進させたりする何らかの環境要因が存在すると考えられます。

遺伝要因や年齢、性別は、変化が不可能ですから、インスリン抵抗性をきたす遺伝子変異体を正常に戻したり、父母兄弟姉妹の誰かが糖尿病患者という家族歴を無かったことになどできませんが、ハイリスク集団をスクリーニングするための危険因子(リスクファクター)として用いることができます。

「リスクファクター」という言葉は、疾病の発生リスクを高めるものの、単独では、疾病を引き起こすことができない要因を総称する言葉として用いられています。5章 疫学における因果推論 - WHO の標準疫学

ところで、中年の肥満の人に糖尿病が多いことは、臨床では古くから知られていました。また、疫学的にも肥満は危険因子であることがわかりました。肥満を改善しても予防の効果が見られない人は当然いますが、この場合は、危険因子となる環境要因が別にあることを示唆します。

肥満とインスリン抵抗性の間には何らかの関係があるようですが、インスリン抵抗性の機序がわからなくも、疫学の手法を使って糖尿病発症と関連を持つ危険因子を見つけることはできます。

危険因子を改善することが疾病の起こる確率を減らすことにつながり ますので、改善の内容は、いわゆる「糖尿病予備軍」と言われる人にとって参考になります。

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2010年の秋から実家の犬(チイタロウ13歳)の世話を始め、朝晩の犬の散歩が日課になりました。食事、運動、インスリンという三つの治療手段が揃ってしまい、言い訳ができなくなってしまった。2013年10月にチイタロウが倒れ、間もなく介護生活が始まると、HbA1c の値は 8 [%]を超え 9.0 [%]に。ストレスはインスリンの働きを阻害することを教えてくれた、チイタロウなのでした。

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サイトを公開してから4年間くらいのページのうち、今でもギリギリ残せておけるかな、と思えるページのアーカイブです。サイト名やサイトデザインは忘れてしまいましたが、若い頃に好きな人に出した手紙を後になって読むくらい恥ずかしいものだったと思います。

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