疲労とは、どういう状態なのか?

疲労は、多くの疾病患者が持つ古典的症状のひとつです。健常人も疲労しますが、休養や十分な睡眠を取れば解消するものです。

血糖コントロールがうまくいっていれば、健常人と同じ生活が送れるなど思い違いも甚だしく、疲労に悩んでいる糖尿病患者は多い(英語)のが現実のようです。

痛みや発熱と同様に、疲労は、生体防御のアラームです。しかし、「疲労とは何なのか」そのメカニズムは良くわかっていません。

疲労が起こる要因のひとつとして、細胞レベルのエネルギー不足(飢餓状態を想像すれば納得できるでしょう)が考えられます。

そして、エネルギー不足を引き起こす酸化ストレスは、疲労の原因の仮説としていくつかの状況に合うものです。

疲労の定義

疲労は、日本疲労学会により次のように定義されています。

疲労とは、過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた、心身の活動能力や能率の減退状態であり、多くは疲労感を伴う。

疲労感は、独特の不快感休養願望活動意欲の減退を指す。疲労は、「疲労」と「疲労感」とに区別して用いられることがある。

  • 「疲労」:心身への過負荷により生じた活動能力や能率の低下
  • 「疲労感」:疲労が存在することを自覚する感覚

多くの場合、不快感と活動意欲の低下が認められる。様々な疾病の際にみられる全身倦怠感、だるさ、脱力感は、「疲労感」とほぼ同義に用いられている。

『日本疲労学会』抗疲労臨床評価ガイドライン(pdf)

何も決まらない会議のための資料作成に時間を費やし、会議という無駄な時間を過ごし、邪魔されずに設計に取り掛かることができるのが夕方から夜十時まで、それでも時間が足りず早朝出勤を始めて2週間。日中は集中力・思考力が低下し、眠気が押し寄せてきます。これは、過度の精神的活動による精神性疲労の一例です。

何とか休暇前日に仕事が片付き、その日の夜に自動車で移動。高速道路のSAで休憩を取りながら、翌朝目的地に到着。石段を登り奥の院へ。五大堂からの眺望はすばらしく、登ったかいがありました。翌日は足、腰、体中が痛くてだるくて、身体が動きません。これは、過度の肉体的活動による運動性疲労の一例です。

精神性疲労や運動性疲労は、誰にでも起こる生理的な一過性の疲労で、十分な睡眠や二、三日休息を取れば回復するものです。

疾病を持つ者は、心身への過度の負荷が無いにもかかわらず、作業能率の低下や全身倦怠感、だるさを認めることがあります。特に病気による全身倦怠感は、患者が医師に訴える症状のうち、痛みに次いで2番目に多い症状です。

このことから、回復しない疲労は、何らかの疾病により生じているかもしれない、というサインと捉えることもできます。

しかし、疾病非特異的で一般的な症状である疲労は、医師が病気の診断をする上で、とりあえず横に置かれてしまうのも事実です。

疲労のメカニズム

疲労の共通認識
  • 末梢の生理的プロセスよって生じる
  • 末梢の生理的プロセスと脳や脳神経系の組み合わせによって生じる

末梢性疲労は、例えば、骨格筋や心筋などの終末器官(受容器のある感覚神経終末)で起こる純粋に生理的な現象と言えます。

千段の石段を上っているうちに、脚の動作は鈍く遅くなり、重く痛みも感じられます。このとき、骨格筋に起きている生理的プロセス

  • グリコーゲン貯蔵量の減少
  • 運動中に減少した酸素消費
  • リン酸の増加
  • カリウムの減少

などは、骨格筋の筋張力能の減退(=疲労)をもたらし、感覚神経を通じて骨格筋周辺の重苦しく痛く痺れるような独特の不快感を自覚させます。

中枢性疲労は、大脳基底核と前頭葉、視床下部、辺縁系をつなぐ複雑な脳神経回路網への外乱に起因すると考えられます。外乱は、環境ストレスと言い換えることができるかもしれません。

脳の各部は、次のような機能や行動と関係しています。

  • 大脳基底核:随意運動の制御や学習、習慣的行動、認知、感情、眼球運動
  • 前頭葉:認知プロセスの制御に関する能力
  • 視床下部:交感神経・副交感神経機能および内分泌機能の調節、本能行動や情動行動

脳は、一過性の低酸素や低血糖状態、炎症性プロセス、セロトニンやドーパミンといった神経伝達物質放出量の変化などに対して影響を受けやすく、影響を受けて機能低下した中枢神経系に引っ張られて他の中枢神経系の活動が低下する、というような脆弱性があります。

外乱(環境ストレス)による脳内の神経化学的変化は、行動や感情を不安定にします。

  • 精神的ストレス:脳神経系に影響を与えるもの
  • 肉体的ストレス:末梢(脳神経系に対して)組織に影響を与えるもの
  • 免疫的ストレス:感染
  • 物理的ストレス:外的刺激
  • 化学的ストレス:化学物質

環境ストレスによる末梢組織や脳神経系の変化は、神経系、内分泌系、免疫系が相互に関連したネットワークを通じて伝達され、それらは脳に直接、あるいはそれらに応じて脳内で産生された物質が脳に作用して疲労が生じる、と考えられます。

疲労に関与する脳内原因物質は何なのか、いくつかの仮説(pdf)が提唱されています。

  • セロトニン仮説
  • アンモニア説
  • サイトカイン説
  • TGF-β関与説

けれども、運動による筋張力能の減退が見られない(つまり運動をしていない)状況における、「注意力を要する作業や身体を使う行動を自発的に始めることができない、あるいは始めたとしても長い時間続けることができない」という中枢性疲労を包括的に説明できるメカニズムは、未だ研究過程です。

疲労が起こる要因

疲労の要因のひとつとして、細胞レベルでのエネルギー不足が考えられます。食事による栄養摂取が長期間不十分な場合や病気の場合に疲労が起こりやすいです。

栄養は、栄養素に分解されて体内に取り込まれ、代謝作用により分解・再合成が行なわれ、エネルギー産生や遺伝子発現(タンパク質合成)などに利用されます。

細胞レベルでのエネルギー不足

1型糖尿病の初発症状に多く見られる糖尿病の典型的な症状(口渇、多飲、多尿、特に体重減少)が現れている時期は、インスリン作用不足により代謝が一方向に傾き、体の細胞が相対的エネルギー不足になっています。

体の中は飢餓状態に近い代謝に変わり、自分の体を構成する脂肪およびタンパク質を分解・再合成してエネルギー源として利用します。しかし、糖新生でグルコースを作ってもインスリン作用不足のため利用できません。

筋肉細胞であれ脳細胞であれ、活発に活動すればするほどエネルギーを必要とします。酷使した自動車が故障するように、過活動した細胞は「障害」されます。障害を修復するためには大量のATP(adenosine triphosphate; アデノシン三リン酸)が必要で、通常の活動レベル時以上のATP産生が細胞に要求されます。

これもひとつの細胞レベルのエネルギー不足です。産生したATPを細胞障害の修復に効率よく向けるため、「疲労」を起こして身体活動を低下させるのではないか、という想像もできます。

細胞の活動に必要なエネルギーのほとんどは、細胞内のミトコンドリアという器官の電子伝達系で得られるエネルギーを利用して産生されるATPが占めています。

ミトコンドリアの電子伝達系は、解糖系およびTCA回路から供給されるNADH(nicotinamide adenine dinucleotide)とFADH2(flavin adenine dinucleotide)を酸化して、プロトン(H+; 水素原子の陽イオン)と電子に分離します。プロトンはATP産生に利用され、電子は、最終的に酸素に伝達されて水を生成します。

電子が電子伝達系を伝達する過程で、電子伝達系から漏れ出た電子が酸素分子を還元し、副産物としてスーパーオキシド(スーパーオキシドアニオンラジカルO2・-)が生成されます。

特に、高血糖に曝された細胞はスーパーオキシドを過剰に生成し、酸化ストレス発生の大きな原因となるものです。

酸化ストレス

スーパーオキシドは、電子対を作らない電子を持つため不安定で、安定を求めてタンパク質や脂質、核酸などと結合する反応性の高いフリーラジカルであり、活性酸素です。

ミトコンドリアの内膜やマトリックスにはATP産生に関わるタンパク質が存在し、その膜は脂質を含み、独自のミトコンドリアDNAを持ち、これらが酸化(酸素を受け取ること)されれば生体分子の作用、構造、機能は障害されます。結果として、ミトコンドリアのATP産生は低下します。

これを防ぐため、酵素スーパーオキシドジスムターゼ(SOD; superoxide dismutase)によりスーパーオキシドを酸素(O2)と過酸化水素(H2O2、活性酸素の一種でフリーラジカルではない)に無害化します。

過酸化水素は、ミトコンドリアの内膜や外膜、細胞膜を通過できるので、細胞内の鉄などの遷移金属と反応すると、1電子還元されてヒドロキシラジカル(OH)を生じます。

ヒドロキシラジカルは、スーパーオキシドより反応性が高く、同じように生体分子を酸化するので、酵素カタラーゼやペルオキシダーゼなどにより過酸化水素を水に無害化します。これらは、生体が持つ抗酸化機能です。

肉体的精神的過活動は、一時的に活性酸素・フリーラジカルの生成を過剰にし、生体の酸化反応と抗酸化反応のバランスが崩れて、相対的に酸化反応が大きくなる場合があります。この状態が酸化ストレスです。

酸化ストレスは細胞を障害するので、細胞修復のために通常以上のATPが必要であり、このことが過活動後の疲労に関係するのではないか、と考えられます。

フリーラジカルを生成する物質は外部環境にも存在し、大気汚染物質や紫外線、放射線、タバコの煙、ある種の薬剤などと接することによりフリーラジカルが生体内に取り込まれます。