アルコール性低血糖

アルコール性低血糖は、飲酒をベースにして、血糖を上げる「要素」が抑制されている状況で起こりやすいです。

  • 肝グリコーゲンの消費
  • 糖質の摂取不足
  • インスリン注射や経口血糖降下薬の服用

具体的には、長時間食事を摂っていない状態で、つまみも食べずに飲酒している、インスリン注射や経口血糖降下薬を服用中の糖尿病患者に、です。

エタノール代謝の効果
  1. 肝細胞内のピルビン酸およびオキサロ酢酸が減少する反応を促進する。
  2. 糖新生の材料が不足する。
  3. 糖新生が抑制される。
  4. 結果として、血糖レベルを下げる。

エタノール代謝は長時間続くので、低血糖は、予期せぬ時に前触れも無くやって来ます。

エタノール代謝

アルコール度数は、お酒に含まれるエチルアルコール(化合物名エタノール)の体積濃度を百分率で表した値に、「度」をつけて表示したものです。

お酒の成分のほとんどは水ですので無害ですが、毒性のあるエタノールは主に肝臓で代謝されて、最終的に二酸化炭素と水になります。

エタノールの代謝
  1. エタノール → アセトアルデヒド → 酢酸
  2. 酢酸 → …… → 二酸化炭素と水
    • 酢酸と補酵素A(CoA)は、酵素アセチルCoAリガーゼに触媒されアセチルCoAになる。
    • アセチルCoAは、末梢組織のTCA回路でエネルギー産生に利用される。

図1.エタノール代謝とHADHからNAD+へのリサイクル:エタノールは、アルコールデヒドロゲナーゼによって酸化されてアセトアルデヒドを生成しますが、その際に補酵素NAD+を使って代謝されます。アセトアルデヒドから酢酸への反応でもNAD+が使われます。NAD+は、別の代謝プロセスから供給されます。

エタノールが酸化されてアセトアルデヒドになる反応は、酵素アルコールデヒドロゲナーゼ(アルコール脱水素酵素)によって触媒されますが、その際に補酵素NAD+(nicotinamide adenine dinucleotide)も必要です。

  • エタノール + NAD+ → [アルコールデヒドロゲナーゼ] → アセトアルデヒド + NADH + H+

アセトアルデヒドから酢酸への反応も、酵素アルデヒドデヒドロゲナーゼ(アルデヒド脱水素酵素)によって触媒される際に、補酵素NAD+が使われます。

  • アセトアルデヒド + NAD+ → [アルデヒドデヒドロゲナーゼ] → 酢酸 + NADH + H+

エタノールが代謝され続けるためには、NADHをリサイクルして消費されたNAD+を補給する必要がありますが、それは次の2つの反応から供給されます。

NADHのリサイクル

1つは、嫌気的解糖の終末産物を生成する反応で、エタノール代謝時のようなNADH/NAD+比が大きいときは、ピルビン酸がNADHで還元されて乳酸とNAD+が生成する方向に傾きます。

  • ピルビン酸 + NADH + H+ → [乳酸デヒドロゲナーゼ] → 乳酸 + NAD+

さて、グルコースが好気的条件下において、二酸化炭素と水にまで完全に代謝されると、多くのATPを産生することができます。

  • グルコース → [解糖系] → ピルビン酸とNADH+H+ → [TCA回路、電子伝達系、酸化的リン酸化] → CO2+H2O+ATP

細胞質のピルビン酸はミトコンドリアに送られ、酵素ピルビン酸カルボキシラーゼがオキサロ酢酸を生成する反応を触媒します。

  • CO2 + ATP +ピルビン酸 → [ピルビン酸カルボキシラーゼ + ビオチン] → ADP + Pi + オキサロ酢酸

細胞質のNADH+H+は、リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルに乗って、細胞質からミトコンドリアへ運ばれます。

図2.リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル:リンゴ酸-アスパラギン酸シャトルは、細胞質で生成された電子をリンゴ酸に託すことによりミトコンドリアへ運ぶシャトル系です。ミトコンドリア内において、リンゴ酸がオキサロ酢酸に変換される過程で、NAD+が還元されてNADHになります。ミトコンドリア内膜を通過することができないNADHは、このシャトル系でミトコンドリアに運ばれます。

細胞質のオキサロ酢酸がNADHで還元されて、リンゴ酸とNAD+が生成します。

  • オキサロ酢酸 + NADH + H+ → [リンゴ酸デヒドロゲナーゼ] → リンゴ酸 + NAD+

通常の代謝におけるリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルの正味の効果は、細胞質にあるNADHの酸化(→NAD+)およびミトコンドリアにあるNAD+の還元(→NADH)で、他の構成物質は実質的に減りも増えもしません。

そして、細胞質のNAD+は再び解糖系で還元され、ミトコンドリアのNADHは電子伝達系において用いられます。

しかし、エタノール代謝にNAD+を持っていかれると、細胞質に存在するオキサロ酢酸が消費される方向に傾きます。

糖新生の抑制

エタノール代謝により、肝臓では次のことが起こっています。

  1. 肝細胞の細胞質にNADHが増加
  2. 増加したNADHをNAD+にリサイクル
  3. 細胞質のピルビン酸およびオキサロ酢酸が減少
  4. 糖新生の中間代謝物の減少により、糖新生が抑制

結局、飲酒とそれに伴うエタノール代謝は糖新生を抑制する方向に働くため、インスリン注射や経口血糖降下薬を服用している糖尿病患者は、低血糖のリスクが高まります。