代償性インスリン過剰分泌というアドバンテージ

1型糖尿病は、インスリン分泌が無いか有っても僅かで、インスリン欠乏に向かって進行している状態にあります。2型であっても進行時間がとても遅いだけで、インスリンの分泌低下が進む方向にあります。

1型の患者からすれば、2型の患者は膵β細胞の機能障害に気付いて対処する時間が多く残っていますし、インスリン抵抗性に対して代償的にインスリンを過剰に分泌しようとしている膵臓を持っているのですから、羨ましい限りです。

このアドバンテージを失わず維持していくために、できるだけ早くインスリン抵抗性の改善に取り組むことを勧めます。

インスリン効果の調節

筆者は1型(発症時のインスリン分泌能は半インスリン状態)ですので、HbA1cが8[%]を越えてしまうような状況においては、インスリン注射の単位数を増やしてインスリン効果を増強します。

同時に、血糖コントロール悪化の背景にあるであろう次のようなことを解消すれば、インスリン標的細胞のインスリン感受性が改善して、HbA1cは下がってくるはずです。

  • 運動不足
  • 食生活の乱れ
  • 罹患
  • ストレス

「解消」とは、簡単に言えば、食事療法と運動療法をできる範囲でまじめにやりなさい、ということです。

大変よくできました
  • インスリン単位数 → 減量し元に戻る
  • HbA1c → 目標を達成し維持
よくできました
  • インスリン単位数 → 増量したままか、少し減量
  • HbA1c → 目標を達成し維持
がんばりましょう
  • インスリン単位数 → 増量したまま
  • HbA1c → やっと目標を達成し維持

HbA1c悪化後は、インスリン量と身体活動量を多くしてインスリン効果を引き上げますが、その結果の多くは「よくできました」か「がんばりましょう」でした。

おそらく、膵β細胞の機能は、失われる方向に進んでいるのでしょうね。

インスリン抵抗性

通常のインスリン量で通常以下のインスリン効果しか発揮していない場合、「インスリン抵抗性が在る」と言われます。

インスリン抵抗性は、2型糖尿病や肥満、高血圧といった病態、思春期や妊娠期のような生理的状態でごく普通に起こっていて、あるいは多くのストレス状態、感染に関連する状態でも見られます。

2型の病態として特にインスリン抵抗性が「目立っている」だけで、1型でも普通にあります。1型は、インスリン抵抗性よりインスリン分泌不全が圧倒的に「目立っている」ということです。

  • 2型糖尿病の病態初期:インスリン抵抗性 >>> インスリン分泌障害

インスリン抵抗性が生じると、膵β細胞のインスリン分泌機能が保たれている限りは、代償性インスリン過剰分泌によってインスリン抵抗性を打ち負かして血糖の恒常性を維持します。

膵β細胞の機能障害が出始めてインスリン抵抗性に負けてしまうと、血糖の恒常性が破綻して糖尿病一直線です。

しかし、未だ膵β細胞の機能障害はわずかです。代償的にインスリンを過剰分泌できる能力があるのですから。

インスリン抵抗性の「場所」

インスリン抵抗性が起こり得る問題の「場所」は、細胞単位で見ると次のように分けることができると思います。

  1. 1. インスリン-インスリン受容体結合前:インスリンのリガンドとしての問題
  2. 2. インスリン受容体:遺伝的な問題
  3. 3. インスリン-インスリン受容体結合後:細胞内インスリンシグナル伝達過程の問題

1.は、インスリンのアミノ酸配列の変異などで受容体と結合しにくいことによるもので、稀です。

2.は、受容体の発現あるいは構造の遺伝的変異の結果、受容体数の減少や活性の変化が起こることによるもので、稀ではないけれども多くもないと思われます。

3.は、細胞内のインスリンシグナルのどこかで酵素活性や酵素活性の抑制を受けて、その下流のインスリン効果が減少することによるもので、ほとんどのインスリン抵抗性は、このメカニズムと考えられます。

細胞には、ホルモンやサイトカインの様々な情報(シグナル)が伝達され、様々な物質が出入りします。また、細胞内では、糖代謝、脂質代謝、アミノ酸代謝などの中間代謝物が生成されつつ複雑な代謝制御が行われています。

そう考えると、3.のようなメカニズムによるインスリン効果の変動は、普通に起こることなのだろうと思います。

代償性インスリン過剰分泌を活かす

2型は、膵β細胞のインスリン分泌能を100[%]出し切っても血糖値は糖尿病型を示すのですから、その要因として次のことが考えられます。

  • インスリン抵抗性
  • 膵β細胞の機能障害
  • インスリン抵抗性と膵β細胞の機能障害の両方

代償性インスリン過剰分泌ができている時期、言い換えると膵β細胞の機能障害が進行していない時期にインスリン抵抗性の改善および維持ができれば、血糖コントロールのための大きなアドバンテージを得ることになります。

自分の膵臓が体内の状況を判断してインスリンを自律的に分泌してくれますし、代謝異常も起こりませんし、一時的にインスリン抵抗性が悪化の方向に変動しても吸収できます。健常人と同等の生活を送ることができると思います。

膵β細胞の機能障害が進行するに従って、アドバンテージは減少していきます。インスリン抵抗性の悪化は、容易に血糖コントロールの悪化につながります。悪化した血糖コントロールの持続は、確実に膵β細胞の機能を低下させます。

問題は、インスリン抵抗性が有るのか無いのかよくわからないことです。インスリン抵抗性の改善に効果があると言われていることを行って、実際に血糖コントロールが良くなったのであれば、インスリン抵抗性が有ったのだろうと推測するしかないです。

インスリン抵抗性の改善

インスリン作用を増強する薬剤を服用して、血糖コントロールを良い方向に修正できる状況でインスリン抵抗性を改善していくと、身体的心理的負担が少ないと思います。

インスリン抵抗性改善の目標は、

  • 良い血糖コントロールを維持しつつ、薬剤の減量を目指す

です。減量した薬剤のインスリン作用に相当するインスリン抵抗性が改善した、と推測することができます。

インスリン抵抗性の改善にとても効果があって、かつ簡単で楽な方法など無いです。普通に糖尿病の治療と同じことをやるだけです。以下の「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2013」(リンク先はPDF)が参考になります。