摂食時の糖代謝とインスリン作用

糖尿病は、糖代謝の異常により血糖値が病的に高くなることが特徴で、細胞のエネルギー源のひとつであるグルコースをうまく利用することができなくなります。

正常な人の血糖は、インスリンの効果により常に一定範囲内に調節されるのですけれども、糖尿病患者は、血糖が上昇したときの耐糖能(血液中のグルコースを処理する速度)が低下しているために、血糖値を正常範囲に戻すことができません。

耐糖能が低下する機序には、次の二つの面を持ちます。

  • 膵臓からのインスリンの供給不全
  • 肝臓や筋肉、脂肪組織におけるインスリン感受性の低下

インスリン感受性が低下して、正常な機能を維持するために過剰なインスリンを必要とする(=インスリン抵抗性)時、各組織はどういう状態になっているのでしょうか。

肝臓の糖代謝とインスリン作用

肝臓は、インスリン作用に依存しない糖輸送担体(GULT2; glucose transporter 2)によって、食事に含まれる炭水化物由来のグルコースを取り込みます。

取り込まれなかったグルコースは、血中を循環して末梢組織に届けられます。

解糖系
  1. グルコース → グルコース-6-リン酸
    • 酵素グルコキナーゼによりリン酸化
  2. グルコース-6-リン酸 → …… → ピルビン酸
    • 様々な酵素により最終的にピルビン酸にまで分解

インスリンは、グルコースを解糖するために必要な酵素を活性化します。活性化されると、解糖系の反応速度が速くなります。

肝臓は、インスリン作用に依存しないでグルコースを取り込むことができても、その先の代謝速度はインスリンによって速まるため、間接的にインスリン作用に依存していると考えることができます。

グリコーゲン合成
  1. グルコース-6-リン酸 → グルコース-1-リン酸
  2. グルコース-1-リン酸 → …… → グリコーゲン

グリコーゲン合成酵素はインスリンにより活性化するので、グリコーゲン合成が促進されます。

脂肪酸合成

1. グルコースが解糖系で分解されて得られたピルビン酸は、細胞のミトコンドリア内でピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の作用により補酵素Aと結合してアセチルCoAとなり、TCA回路に組み込まれます。

2. アセチルCoAは、クエン酸に変換されてミトコンドリア外(細胞質ゾル)に運ばれ、 ATPクエン酸リアーゼにより、クエン酸は再びアセチルCoAに戻されます。

3. アセチルCoAは、酵素アセチルCoAカルボキシラーゼにより、マロニルCoAとなります。さらに脂肪酸合成酵素によりアシルACPを経て脂肪酸に合成されます。

インスリンは、酵素アセチルCoAカルボキシラーゼを活性化させてマロニルCoAの生成を促進し、脂肪酸合成酵素による脂肪酸の合成がさらに促進されます。

合成された脂肪酸は、解糖系の中間生成物であるグリセロール-3-リン酸と結合して、中性脂肪(トリグリセリドまたはトリグリセライド) になります。

中性脂肪は、肝臓の細胞に貯蔵されたり、コレステロールおよびアポ蛋白と結合してVLDL(very low density lipoprotein, 超低比重リポ蛋白)となって血液中に放出されます。

アセチルCoAからはコレステロールが合成されますが、インスリンはHMG-COA還元酵素を活性化させ、コレステロール合成を促進させます。

インスリンにより中性脂肪とコレステロールの生成が多くなれば、当然VLDLが血液中に多く存在することになります。

摂食時の肝臓の糖代謝

肝臓の糖代謝(摂食時)
  1. 食事
    • 炭水化物 → [消化・吸収] → グルコース → [GULT2] → 肝臓(細胞内)に取り込み
  2. 細胞内
    • グルコース → [解糖系] → グリコーゲン
    • グルコース → [解糖系] → ピルビン酸 → [TCA酸回路] → 脂肪酸 →
      • → 中性脂肪(一部は肝細胞に貯蔵)
      • → 中性脂肪+コレステロール → VLDL(血液中へ)

摂食時の肝臓は、インスリンの作用により、急激に増えるグルコースを滞りなくグリコーゲンや中性脂肪、VLDLに変換します。

インスリンの作用が低下すればこれらの変換は抑制され、肝臓が糖代謝する時間は多く必要になります。

肝臓のグルコースの取り込み自体は、インスリン作用に依存しない糖輸送担体(GULT2)によって行なわれるため、糖尿病の人も正常な人も差はありません。

肝臓にグルコースを取り込めるのだから血糖は高くならないのではないか、という疑問を持つでしょうが、その先の解糖系やグリコーゲン合成が滞るのです。

また、肝臓は、グリコーゲン分解や糖新生を行ない、グルコースを血中に放出するという働きもあります。インスリンは、このグルコースを産生する働きを抑制します。

インスリンの作用が低下して血糖が高くなる原因のひとつは、肝臓が摂食時に急激に増えたグルコースを取り込まないから、ということではないようです。

グルコースを取り込む能力はあるのに、インスリン作用不足のため糖代謝が進まないためと糖放出が止まらないからです。穴の開いたバケツ状態ですね。

消化器官を経て門脈を流れてきたグルコースの一部は、肝臓に取り込まれないで直接血中に流れていきます。そのようなグルコースの取り込みには、筋肉とそのインスリン作用が関係してきます。

筋肉組織の糖代謝とインスリン作用

食事を摂ったことにより急激に増えるグルコースは、肝臓に取り込まれる一方、血液中を流れていき各組織のエネルギー源として利用されます。

膵臓のβ細胞は、血中のグルコース濃度に反応してインスリンを分泌します。グルコース濃度が高くなれば、膵臓からインスリンが多く分泌される、ということです。

筋肉は、インスリン濃度が高くなると、グルコースをさかんに取り込むようになります。

グルコースの取り込みには糖輸送担体(GLUT4; glucose transporter 4)が関係していて、これがインスリンに反応して細胞膜上に多く表われることにより、細胞内へのグルコースの取り込みが促進されます。

取り込まれたグルコースは、筋肉組織では、肝臓とおなじようにグリコーゲンとして貯蔵することができます。

筋肉に貯蔵されたグリコーゲンは、筋肉自身でのみ利用され、肝臓のように血中にグルコースを放出して他の組織で利用されることはないです。

骨格筋は、運動時のエネルギー源として多くのグルコースを消費しますので、たとえインスリン分泌が少ない場合でも細胞膜上にGLUT4が多く表われ、グルコースをさかんに取り込みます。

運動は、インスリンに依存しないで血液中からグルコースを減らすことができます。

摂食時の筋肉組織の糖代謝

筋肉組織の糖代謝(摂食時)
  1. 食事
    • 炭水化物 → [消化・吸収] → グルコース → [GLUT4] → 筋肉組織(細胞内)に取り込み
  2. 細胞内
    • グルコース → [解糖系] → グリコーゲン
    • グルコース → [解糖系] → ピルビン酸 → [TCA酸回路] → [電子伝達系] → エネルギー産生

インスリンの作用が低下すると、筋肉はグルコースをいつものように取り込むことができなくなり、グリコーゲンの貯蔵量も減り、相対的に血液中にグルコースが多く存在することになります。

グリコーゲンの貯蔵量が減ると、スタミナが無くなったと感じるようになります。また、取り込んだグルコースを解糖してエネルギーを得るのに十分でなくなります。

筋肉は、グルコースの他に脂肪酸もエネルギーとして利用できるので、一時的にはなんとかなります。

運動時の筋肉組織の糖代謝

筋肉組織の糖代謝(運動時)
  1. 細胞外
    • 肝臓 → [糖新生] → 血中グルコース → [GLUT4] → 筋肉組織(細胞内)に取り込み
  2. 細胞内
    • グリコーゲン → [分解] → グルコース
    • グリコーゲン由来グルコース → [解糖系] → ピルビン酸 → [TCA酸回路] → [電子伝達系] → エネルギー産生
    • グルコース → [解糖系] → ピルビン酸 → [TCA酸回路] → [電子伝達系] → エネルギー産生

運動時、筋肉は、インスリンに依存しないで血中のグルコースを取り込むことができます。

ただ、その先の解糖系はインスリン作用によって促進されるので、せっかく細胞に取り込んだグルコースがエネルギーとして利用されない場合もあります。もちろん、安静時、摂食時に係わらず、それは起きます。

脂肪組織の糖代謝とインスリン作用

脂肪細胞は、血液中のグルコースを取り込み、TCA回路でエネルギー産生に必要なアセチルCoA生成と、中性脂肪を合成するために必要な解糖系の中間生成物であるグリセロール-3-リン酸の生成に利用されます。

そして、脂肪酸とグリセロール-3-リン酸から中性脂肪が合成されます。

これは、肝臓の細胞と働きは同じですが、脂肪酸の出どころが血液中のVLDLに含まれる中性脂肪である、という点が異なります。

VLDLの元をたどれば肝臓がグルコースから作った中性脂肪で、脂肪組織は、中性脂肪の貯蔵場所と言えます。

インスリン作用は、脂肪細胞のグルコース取り込みを促進させ、解糖系を活性化させることによりグリセロール-3-リン酸の生成を促進します。

また、リポ蛋白リパーゼが活性化することにより、血液中のVLDLに含まれる中性脂肪を脂肪酸に分解することを促進します。

結果、材料が豊富に揃うことにより、脂肪細胞において中性脂肪の合成が促進されます。なお、脂肪細胞に取り込まれるグルコースの割合は、血糖の数パーセントだそうです。

脂肪組織の糖代謝(運動時)
  1. 細胞外
    • 血中グルコース → [GLUT4] → 脂肪組織(細胞内)に取り込み
  2. 細胞内
    • グルコース → [解糖系] → グリセロール-3-リン酸(中性脂肪合成の材料)
    • グルコース → [解糖系] → ピルビン酸 → アセチルCoA → [TCA酸回路] → [電子伝達系] → エネルギー産生

ポリオール代謝

脳や神経細胞のグルコース取り込みは、インスリンに依存しません。グルコースは、もっぱらエネルギー産生に使われ、グリコーゲンや中性脂肪の合成は行なわれません。

しかし、抹消神経や網膜、水晶体、腎臓のような、インスリンに依存しないでグルコース濃度に依存して細胞内へのグルコース取り込みが増える部位では、ポリオール代謝が行なわれる場合があります。

これらは、糖尿病合併症が起こりやすい部位です。

糖輸送担体(GLUT)が糖取り込みを担っている細胞では、グルコースが細胞内に無制限に流入することはありませんが、グルコース濃度に依存して細胞内に流入してくる細胞では、高血糖状態が続くといずれ解糖系において処理しきれなくなったグルコースをなんとかしなければなりません。

そこで、解糖系の迂回経路としてポリオール代謝経路があります。

ポリオール代謝
  1. 細胞外
    • 血中グルコース → [GLUT2] → 細胞内に取り込み
  2. 細胞内
    • グルコース → [アルドース還元酵素] → ソルビトール → [ソルビトール脱水素酵素] → フルクトース(果糖)

通常は、ポリオール代謝系はほとんど働いていません。血糖値が高い状態が続くと、細胞内へ取り込まれるグルコースの量が増えます。

解糖系が飽和状態になるとアルドース還元酵素が活性化され、グルコースをソルビトールに還元します。ソルビトールは、ソルビトール脱水素酵素によりフルクトースへ変換され、細胞外に出されます。

しかし、フルクトースへ変換する速度が遅く、細胞内はソルビトールでいっぱいになります。このような状態をポリオール代謝異常と言い、神経障害をはじめとする慢性合併症の原因の一つと考えられています。

摂食時の糖代謝とインスリン作用のまとめ

  • 食事から摂った炭水化物は、消化器官において分解後吸収されグルコースになり、門脈を経て肝臓に流れる。
  • 肝臓は、インスリン作用に依存せずにグルコースを取り込む。 同時にインスリン作用により糖放出を瞬時に停止する。インスリン作用が低下すると、グルコースを取り込んでいるにもかかわらず糖放出がまだ行なわれ、これが食後高血糖の原因のひとつです。
  • 肝臓に取り込まれたグルコースは、グリコーゲンや中性脂肪、VLDL(超低比重リポ蛋白)になる。
  • グルコースを処理する系は、インスリンにより促進される。インスリン作用が低下すると急激に増えたグルコースの処理が滞り、肝臓は十分にグルコースを取り込むことができなくなる。よって、肝臓のグルコース取り込みは、間接的にインスリンに依存する。
  • 筋肉は、血中のグルコースをインスリンに依存して取り込む。インスリン作用が低下すれば、グルコースの取り込みが滞るため血糖が下がりにくくなる。
  • 筋肉に取り込まれたグルコースは、グリコーゲンやエネルギー生成に利用される。
  • 運動は、血中のグルコースをインスリンに依存せずに取り込む。
  • 脂肪組織は、肝臓がグルコースから作った中性脂肪の貯蔵場所。