厳格な血糖コントロールで合併症発症リスクが低下

「糖尿病の大規模臨床研究 DCCT(Diabetes Control and Complications Trial)」の目的は、血糖を良い状態にコントロールすることは合併症の発症と進行を抑える効果があるのか、調査・研究することでした。

逆に言えば、DCCTが終了した1993年までは、良い状態の血糖コントロールがもたらす効果に対して、科学的・統計的裏付けが無かったということに驚きます。

現在、HbA1cを血糖コントロールの自己管理目標として用いることができるのは、この研究結果によるものです。参加した糖尿病患者のボランティアのお陰ですね。

1923年にインスリン製剤が実用化されてから60年の間、おそらく医療の現場では、血糖レベルが健康の人に近いほど合併症を発症していないことに気付いていたと思います。

ただ、そのエビデンス(evidence)、合併症の発症と進行を抑える効果があることを示す証拠、検証結果が無い。

そこで、生理学的裏付けが明確ではないとしてもDCCTによって効果があるという結果が得られたならば、治療目標として素早く採用していこうという米国の医療の立ち位置が見て取れます。

DCCTとは何ですか?

DCCTは、1983年から1993年にかけて米国国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)によって行なわれた糖尿病の大規模臨床研究です。

この研究で、血糖を正常に近づけ維持することにより、糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経障害)の発症と進行を遅らせることができる、とわかりました。

研究対象は、米国とカナダ在住の19歳から39歳の1型糖尿病患者1,441人のボランティアです。罹病期間は1年から15年で、二つの患者群に分けられました。

  1. 合併症が全くない患者群
  2. 初期の網膜症を発症している患者群

この研究では上記二つの患者群に対し、

  1. 従来療法:当時の標準的な血糖コントロールを行なう治療
  2. 強化療法:血糖コントロールを強化した治療

を行い、合併症について比較しました。強化コントロールとは、HbA1c(NGSP)を可能な限り6.0[%]以下に維持することを意味します。対象は計4群です。

  1. 合併症が全くない患者群×従来療法
  2. 合併症が全くない患者群×強化療法
  3. 初期の網膜症を発症している患者群×従来療法
  4. 初期の網膜症を発症している患者群×強化療法

米国におけるHbA1c (NGSP) 6.0[%]を日本のHbA1c (JDS) に換算すると、約5.6[%]になります。

これは、ヘモグロビンとグルコースが結合したグリコヘモグロビンのうち、どれを測定対象にしているかの違いによるものです。米国のHbA1c値は日本の値より約0.4[%]高くなることに注意してください。

DCCTの調査・研究結果の概要

研究の結果、従来療法群と比較した強化療法群の合併症発症リスクは、次のように低下しました。

  • 網膜症の発症リスクは76[%]低下
  • 腎症の発症リスクは50[%]低下
  • 神経障害の発症リスクは60[%]低下
強化療法管理項目
  • 1日に4回以上血糖値測定を行なうこと
  • 毎日少なくとも3回以上インスリン注射を行なうか、インスリンポンプを使用すること
  • 食物摂取量と運動量に応じてインスリン量を調節すること
  • ダイエットと運動計画をフォローすること
  • 毎月、内科医や看護師、栄養士などから成るヘルスケアチームを訪問させること

合併症の発症リスクは、厳格な血糖コントロールを行なった方が少ないことがわかります。

しかしながら、絶対に発症しないとは言えないところが、発症する人は発症する、やれることは最大限やったけれども発症したのは運命です、のような諦め感も少し持ちました。

でもそれは、治療を行なう上で間違った考え方です。効果があることは証明されているのですから、より健康な人の血糖レベルに近づくよう日々の生活を送らなければならないのだと思います。

DCCTはHbA1cの目標値を示してはいませんが、血糖コントロールの効果は示しています。患者個々の状況に応じてできることをやる、ということです。

治療にもお国柄が反映

強化療法の中身を見ると、米国と日本では考え方が異なっているようです。

米国では食物摂取量と運動量に応じてインスリン量を調節する、身体の仕組みからしてこちらの方が自然のような感じがします。

一方、日本ではカロリー制限が最初にあって、次にインスリン量が決められることが主流のようで、病気なのだから不自由なのは当然だ、という感じがします。

どちらが正しいかは誰にも決められませんけれども、患者が選択することはできます。

結果が同じであるならば、どちらを選んでもいいような気がします。ただし、米国式の場合、運動も一緒に行わなければすぐに体重が増えます。